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取り組み・活動

フィリピンにおける自動車整備士養成学校への支援:いすゞ・ハート&スマイル・プロジェクト(IHSP)

いすゞがフィリピンで2008年から続けているいすゞ・ハート&スマイル・プロジェクトは、経済的に恵まれない人々へ無償で自動車整備士養成教育を提供する取り組みです。プロジェクトを通して成長した卒業生たちは経済的に自立するだけでなく、自動車業界で高い評価を受け、様々な形で活躍。いすゞの社会貢献として始まったこの活動がいすゞの事業や自動車業界に良い影響を及ぼすという、「社会貢献の循環」が生まれています。

  • いすゞ・ハート&スマイル・プロジェクトの概要

    いすゞ・ハート&スマイル・プロジェクト(以下、IHSP)は、いすゞの創立70周年記念事業として開始された社会貢献活動です。
    IHSPは複数の国々で展開され、フィリピンではレイテ島のタクロバン市において、貧困家庭の子女を対象とした自動車整備士養成学校(TESDA Auto Mechanic Training Centre)への教育支援活動を行っています。
    この取り組みは2008年から始まって以来、途切れることなく継続しています。

    フィリピンの人口は近年1億人を突破し、平均年齢は24歳と若く、将来性豊かな国です。
    また、英語が公用語であることや人口の約10%(1,000万人)が他の国へ出稼ぎに行っていることから、グローバルな可能性に満ちた国といえます。

    いすゞは1997年に「いすゞフィリピンズ」(IPC)を開業し、現地での組立、生産、販売を開始。トラックの新車販売においては、日本の小型・中型トラックに該当するカテゴリーで長年高いシェアを維持しており、近年、大型も急速にシェアを拡大しています。
    また多人数が乗車可能なSUV「MU-X」やピックアップトラックの「D-MAX」も人気があります。

    しかし、この国の貧富の差は大きく、貧困から抜け出すために必要な教育や支援の仕組みはまだまだ不足している状況です。
    そういった国で自動車整備士の養成を支援することが、社会貢献活動として有意義であり、また自動車業界への貢献にもなると考えたのです。

  • 自動車整備士養成学校

    いすゞは、自動車整備士養成学校の運営資金や必要な設備・専用機材の提供、寮や食堂などの運営を担うとともに、現地トレーナーの育成や、学生の学費・生活費の援助、運転免許の取得などきめ細かい支援を行っています。

    学校は、半年を1期とする4期制。フィリピンにおける自動車整備士の国家資格の中でも最高ランクのNC4が取得可能で、近年は全ての生徒がNC4を取得しています。
    その実績から、この学校はフィリピン国内でも知名度が高く、募集倍率は高くなっています。2期合わせて計36名の募集枠に対して、約1,000名もの応募が集まる人気校です。

    入学選考の基準には、本人が貧困家庭の出身で、向学心があり本当に親や家族を助けたいという強い意志を持っていること、数学・英語に秀でていることなどがあります。2年という短期間で集中的に技術やマナーを身につけ、規律を守らせるなど、厳しい基準を設けています。

    入学を希望する若者たちは、一家の稼ぎ頭となって親やきょうだいを支えている者も少なくありません。
    したがって、専門教育が無料で受けられるといっても、その家庭にとって子供を学校に入学させることで2年間収入が減ってしまうため、入学は重大な決断となります。
    そうした家庭から入学した生徒は、自分自身が経済的に自立するだけでなく、「家族を支えたい」「家族の住む家を新しくしてあげたい」という切実な希望を持っています。
    その夢をかなえるため、生徒たちの学ぶ意欲は並大抵ではありません。

  • 学校の授業

    「入学する前はほとんど自動車のことを知らなかった」という生徒もおり、生徒たちは必ずしも自動車についての知識が豊富というわけではありません。そのため、IHSPでは自動車の基礎から授業を始めていきます。

    学校の授業は現地のトレーナーたちが行います。
    トレーナーたちは、単にカリキュラムを進めるだけでなく「どうすれば伝えたい知識が伝わるのか」「どうすれば生徒たちは講義の内容を技術に結びつけることができるのか」ということを考え、工夫しています。
    トレーナーの中には、自分自身がこの学校出身であるという人もいます。彼らは自分がかつて学校で学んだこと、そして卒業して外の世界で働いた経験を、後輩たちに伝えていくことにやりがいを感じています。

    熱意を持ったトレーナーたちの丁寧な授業を受けて、生徒たちは、入学して半年後には最初の国家資格NC1の試験を受け、2年後には最高ランクのNC4に合格して卒業していくのです。

    IHSPでは、資格に必要な技術系の授業だけでなく、英語や数学のほか、21世紀型スキルと言われるコミュニケーション、チームワーク、リーダーシップ、クリティカルシンキング、環境リテラシーといった講義も行われます。
    生徒たちはそういった非技術系の講義からも多くのことを学んでおり、プロフェッショナルとしての仕事の姿勢や、お客様の立場で考える大切さを身につけるのです。
    整備のスキルにとどまらない学習内容は、卒業生たちが実際に整備士やサービスアドバイザーとして働いていくうえでのアドバンテージとなっています。

  • 「いすゞ塾」のはじまり

    いすゞは、学校運営を支援するだけでなく、トレーナーや生徒に対する技術指導も行っています。「いすゞ塾」という取り組みです。

    いまでこそ、この学校では自動車整備士の国家資格全4段階中最高のNC4まですべて取得することが出来ていますが、学校の設立当初は、生徒に指導するトレーナーたちでさえも、すべてがNC4の資格を持っていない状況でした。
    そこでいすゞは、日本から整備のプロフェッショナルである社員を派遣して、現地トレーナーへの技術指導も行うことになりました。これが「いすゞ塾」の始まりです。
    まずは現地トレーナーたちが高次の資格を取得。そうすることで、現地トレーナーだけで生徒たちにNC4の資格取得に向けた指導ができるようになったのです。

    また、年2回、日本の社員が生徒に授業する機会も作っています。
    生産、開発、産業ソリューション・PT業務部門の社員が講師の役割を持ち回り、「電気」「エンジン」「ブレーキ」「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・躾)についての指導を行います。例えば電気に関する授業では、フレミングの法則や電流と磁界についての座学を行ったうえで、実際に小さなモーターを組み立てる実技の講義が行われます。学んだ知識を実体験として身につけていくのです。

    生徒たちも日本のいすゞ社員から教わる機会を楽しみにしています。また、講師を務める社員にとっても、社会貢献にかかわることのできる喜び、普段の仕事にはない感覚を得ることができるのです。

  • 学校生活

    学校は全寮制。生徒たちは自動車整備の技術に加えて、寮での共同生活を通して規律や生活習慣を身につけていきます。

    毎朝、授業の前に行う朝礼では、生徒全員が集まり、その日の当番がステージに上って、点呼や情報の連絡、ラジオ体操、お祈りを行います。1学年から4学年まで統率の取れた動きを身につけることは、将来工場やディーラーで働く際に大いに役立つものです。
    一方で、授業の合間にはクラスごとに集まって間食を取りながら談笑するなど、共同生活には楽しい時間もあります。また、何らかの議題が持ち上がると、授業後の夕方に生徒全員が集まって話し合いを行い、問題を解決するという民主主義的なルールもあります。
    こうした学校生活を通して、友情やコミュニケーションスキル、勤勉さが育まれていると言えるでしょう。

  • 卒業生たちの進路

    2023年11月に創立15周年を迎える本校では、2023年3月までに351名が卒業。多くがフィリピン国内販売会社や海外で活躍しています。
    日本で就職する卒業生も増えており、いすゞおよび国内の販売会社で活躍しています。

    卒業生は、自動車の整備作業全体に精通していることに加え、学校で英語や数学など非技術系の知識も身につけているため、就職先で高い評価を受けています。
    もちろん技能面における評価も高く、世界約50カ国の選手が競う「いすゞワールドサービス技能コンテスト」(通称I1-GP)で優勝する卒業生もいるほどです。

    自動車整備の知識を生かして、販売店でサービスアドバイザーとして働いたり、トランスミッションの製造工場で品質管理業務を担当したり、また自身が教える立場のトレーナーとなったり、卒業生の働き方は様々。

    卒業生たちはいずれも、自動車産業に就職したことで安定した収入を得ることができ、経済的な自立を達成しています。さらに、家族の住む家を建て替えたりリノベーションしたり、きょうだいの進学に必要な学費を工面したり、家族の生活を支えることもできています。

    独立して自身の整備工場を持っている卒業生もいます。2期生のロジェ・ガルシアさんです。ロジェさんは海外で働くことを夢見てTESDAに入学し、卒業後はサウジアラビアで自動車整備士として働き、夢を実現。その後、フィリピンに帰国し、タクロバン市内に工場を開業しました。
    さらに、この工場にはロジェさんの後輩にあたるIHSPの卒業生も働いています。卒業生が経済的に自立するだけにとどまらず、卒業生が更なる雇用を生む段階に入ってきているのです。

  • フィリピンから世界へ

    卒業生の活躍はグローバルに広がっています。
    いすゞは、2015年にアフターセールス支援会社 (Isuzu Global Service Corporation :IGSC)をフィリピンで設立。ここでは、NC4を取得した自動車整備士を雇用し、いすゞ車両の整備に特化した講習や実技訓練を集中的に実施しています。ここにIHSPの卒業生たちが採用されています。
    IGSCでの訓練を受けた卒業生は、高い専門性を武器に、世界中にあるいすゞの関連会社へと就職し、いすゞ車両の稼働を支えているのです。

    IGSCでの訓練を終えた卒業生は、活躍の場を求めて日本にもやってきています。いすゞ本社の海外サービス部や、販売会社、いすゞものづくりサービストレーニングセンター(MSTC)でメカニックやフィールドエンジニアとして働く彼らは、業務を通してスキルと専門性をさらに高めています。

  • 社会貢献の循環

    IHSPは決して順調なものではなく、大型台風の直撃による破滅的な被害やコロナ禍など、大きな試練もありました。
    しかしそうした困難もありながら、卒業生たちが経済的に自立することができ、親やきょうだいを支えたり、自身の家庭を持つことができているということは、プロジェクトの大きな成果と言えるでしょう。
    また、生徒や卒業生たちにいすゞ愛が生まれ、いすゞグループに就職して活躍し、世界中で仕事を続けていることは、自動車業界への貢献にもつながり、いすゞに対する恩返しにもなっています。
    活動を継続することで生まれてきた「社会貢献の循環」を、私たちは大事にしています。

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