トラック大図鑑
教えて!「トランスミッション」のこと

ここは、神奈川県湘南台の喫茶店「いすゞCafe」。しぶいマスターが一人で切り盛りしている。
若いころはトラックドライバーとして活躍したらしく、
店にはそのころの写真や思い出の品が飾られている。
今日も地元の若いカップルが、おいしい珈琲に惹かれてやってきたようで・・・。

マスター、ぼくはキリマン

あたしはアメリカンかなあ。ねえマスター、今日はあたしが運転してきたのよ

きょうこちゃんも免許持ってるんだよね

オートマ限定だけどね

トラックのトランスミッションって知ってるかい、オーレ!

うわ、びっくりした。サンバのケンさんだ!

相変わらず金ぴかのサンバ衣装なんですね

きみたち、トラックのトランスミッションはね、多いモノでは16段変速なんだよ

そのトランスミッションって言葉、あたしよくわからないんですけど・・・

カンタンに言えばね、『変速機』だよ。エンジンの回転を切り換える働きをするんだね

大型トラックの『変速機』なんて、切り換えるのにすごい力が要りそうだよね

とんでもないよー

空気の力を借りるんだよね


ええっ『空気の力』?
トランスミッションの
切り換え

少し前、バスの運転手さんのあやつるトランスミッションのチェンジレバーが、すごく長い棒のようなレバーだったのを見たことがありますか?以前は、腕の力でトランスミッションを切り換えていました。なので、「てこ」の原理の応用で、長くして少しの力で切り換えられるように工夫されていたのです。
今では、トラックのトランスミッションの切り換えは「空気の力」(圧縮された高圧の空気)で行うのが主流です。
ドライバーがトランスミッションのレバーを切り換えると、「空気の力」がギヤを動かす補助をしてくれる仕組みになっているのです。
「トランスミッションの切り換え」とは、カンタンに言えば、高速で回っている歯車同士を一瞬で噛み合わせること。

また、高速で回っている歯車はほんのわずかでもムダなカタチがあると、すり減ってしまったり、大きな音が出てしまいます。そうするとトランスミッション自体が壊れたり、騒音が発生してしまうなど、トラックの運転自体に支障が生じてしまうでしょう。そうならないよう、歯車のカタチというものは、ミクロン単位できめ細かく調整されているのです。

空気がトラックの中を走って、ギヤを切り換えてるなんてすごーい

それもすごいけど、考えてみたら、高速で歯車と歯車を切り換えて噛み合わせたり、高速で歯車が回っているなんて、それもすごいよね

いいところに気がつくねえ、セニョール!

そのためにね、トランスミッションの内部には油、つまりオイルがたっぷり入ってるんだよ。そのオイルの中に歯車が浸かっているんだ

そう、お風呂に浸かるようにね

ええーっ、歯車が油のお風呂に浸かってるの?

そんな中で、高速で回ってるんだ。すごいねー

スムーズに噛み合うようにそうしているわけなんだよ。だけど、オイルの中で歯車がすごい回転を続けているわけでしょ。そうするとオイル自体が熱を持って来ちゃうんだよね。だから、大型トラックのトランスミッションには、高温になったオイルを冷やすための『オイルクーラー』がついているものもあるよ、オーレ!

あとね、きょうこちゃん、心配しなくても、トラックにも『オートマ車』のようにクラッチ操作をしなくてもギヤチェンジができるシステムがあるんだ



そうなの?じゃ運転がずいぶん楽になったのね

そうさなあ・・・セニョリータ。昔のことを思えば、運転はずいぶん楽になったよなあ(しみじみ)
機械式自動変速機(AMT)
マスターが言ったように「機械式自動変速機(AMT)」のおかげで、クラッチ操作に煩わされることなく運転ができるようになってきました。
また、運転がしやすいように、トランスミッションのチューニングは綿密に行われています。
こうしてケンさんやマスターの話を聞いていると、トランスミッションの部分は、非常に緻密な設計がなされていて、それこそ「油」やら「空気」など「漏れたらたいへん」な部分もあります。
「仕事をする車」であるトラックが、長時間長距離走行することを考えると、その強度・耐久性も大きな問題。その強度を確かめるために、何台ものトランスミッションを実際に壊す実験も行われているのです。
また、トラックの車体を少しでも軽量化するため、トランスミッション自体も、「グラム単位」で軽くするよう、設計や部品で、さまざまな工夫がなされています。
また、トランスミッションに限らない話ですが、現在、トラックの中枢にはコンピュータが存在し、燃費のことを考えて、最適の走行を計算して「機械式自動変速機(AMT)」に指示を出します。それらにより、運転するドライバーへの負担をだんだん減らすことができるようになりました。

いやー、トランスミッションって奥が深いんだねえ

まさか、中で歯車がオイルに浸かっているなんてね

とにかくね、とにかくトランスミッションは偉い!

ほんとうに車の中でも『よく働いている場所』って感じがするものね

さあて、俺もそろそろ家に帰る時間だ。家に帰ってお風呂にでも浸かるか。歯車はオイルだけどね、俺は普通のお湯でいいよ、オーレ!

ケンさんはお酒のお風呂の方がいいんじゃないの?
こうして湘南台の喫茶店『いすゞCafe』では、マスターとカップルにケンさんも加わって、よもやま話はつきることがないようである。オーレ!