トラック大図鑑

教えて!「吸気ダクト」のこと

ここは、神奈川県湘南台の喫茶店「いすゞCafe」。しぶいマスターが一人で切り盛りしている。
若いころはトラックドライバーとして活躍したらしく、
店にはそのころの写真や思い出の品が飾られている。
今日も地元の若いカップルが、おいしい珈琲に惹かれてやってきたようで・・・。

きょうこ

こんにちは。あれ?窓が全部開けっ放しになってる。マスターお掃除中なの?

マスター

ああ、ごめんごめん。ちょっとお客さんが来ないうちに掃除しよう思って。いま、窓を閉めるからね

あきら

でもこうして窓を大きく開けて、風が吹き込むのも気持ちいいもんだよね

きょうこ

湘南の風は気持ちいいわ

マスター

そうだね。やっぱり新鮮な空気を取り入れることって大切だね

あきら

う~ん。深呼吸すると気持ちいい。人間って、空気を吸い込まないと生きていけないものね

マスター

人間はもちろんそうだけれど、トラックも、空気を吸い込まないとダメなんだ

あきら

トラックでも空気を吸い込まないといけないの?

マスター

それはとても大切なことなんだ。そのためにいろんな工夫がしてあるんだよ。それはね・・・

トラック吸気ダクトついて

人間がそうであるように、トラックにも必ず空気が必要です。空気を吸い込んでエンジンに送り(吸気)吐き出す(排気)一連の流れがスムーズにいかないと、エンジンは動かず、トラックは走れません。その「吸気」を支えるシステムのメインとなるもの。それが「吸気ダクト」なのです。
それはどこにあるのでしょうか?キャブの後ろ側に、プラスチックの筒みたいなものがあります。それが吸気ダクトで、エンジンに供給される空気の入り口です。

そこで、まず工夫が必要なことが「吸気抵抗を下げること」です。カンタンに言えば「空気を吸いやすくすること」で、効率よく空気を取り入れてスムーズにエンジンに送ることです。
そして、エンジンを傷めないために「水や異物を吸い込まないようにすること」も大切です。雨水や空気中の異物を吸い込んだりしないように形状に工夫がされています。多少の水が入っても排出される構造になっています。また、吸気ダクトにはエアクリーナーが取り付けてあり、そこで異物をシャットアウトしています。なので、定期的にエアクリーナーに使うフィルター(濾紙)を取り替える必要があるのです。「吸気抵抗を下げること」「水や異物を吸い込まないようにすること」のふたつは、おもにエンジンをちゃんと稼働させるために大切なことなのですが、もうひとつ、「吸気の音をおさえること」も工夫されています。これはドライバーの安全運転のためにという目的です。空気を取り入れるときに、あまり「吸気音」が大きくて耳障りだと、ドライバーの運転に影響してしまいますよね。そこで、スムーズにたくさん空気を吸い込みながらも、あまり耳障りな音を出さないように工夫がされているのです。そのために「レゾネーター(共鳴箱)」という中が空洞の構造物が組み入れられています。吸気音を共鳴の仕組みを使って減衰させ低減します。ですから、音を出さないように、というより、音を消し去るシステムという方が実感に近いかもしれません。

吸気抵抗を下げる為に(=空気がスムーズに流れるように)解析技術等を駆使して最適なダクト形状としている
きょうこ

トラックの吸気ダクトってそんなに工夫がされているのね!

あきら

地味だけどすごく大切な部分なんだね

マスター

そうなんだよ。トラックは空気がないと走れないんだ。だから、効率よく空気を吸い込むと言うことは、とても大切なことで、吸気ダクトはその責任を背負っているんだ

きょうこ

もっとたくさん空気を吸い込めるように、大きな吸気口にしたらいいんじゃない?あきらくんの鼻の穴みたいに大きく

あきら

余計なお世話だよ

マスター

そうできればいいんだけれどね。これは毎回話していることかもしれないけれど、トラックには限られたスペースしかない。そこにいろんな機能を詰め込む必要がある。だから吸気ダクトに使えるスペースもわずかしかないので、限られたスペースで最大の効果を上げることが求められるんだ

あきら

その中で、効率よく空気を吸い込んで、水や異物を入れないようにして、なおかつ、吸気音を出さないようにしなくちゃいけないんだね

マスター

そうなんだ。ちょっと見ただけではわからないだろうけれど、吸気ダクトというのは工夫の固まりなんだよ・・・

吸気ダクト工夫

キャブの背面に背負うタイプの吸気ダクトを「吸気バーチカルダクト」といいますが、「フロント吸気システム」といって、キャブ前面に吸気口があるものがあります。これは荷台スペースをより広く使いたいためです。

そんな限られたスペースで吸気をスムーズに行い、エンジンに空気を送る吸気ダクトに求められることは、エンジンの働きと直結しています。「燃費を良くすること」「排ガス性能をよくすること」そして、「出力トルクを上げること」つまりエンジンのパワーを上げることです。しかし、この3つは、どれかを重視するとどれかの性能に影響するという関係にあります。ですから、吸気ダクトには、「出力トルクを上げながらも、燃費をよくするように」「排ガス性能を良くしながらも出力トルクを下げないように」といった難しい開発目標を達成する為に、厳しい吸気抵抗低減の条件がつけられます。

そんな工夫を支えるもののひとつが「センサー」です。吸気ダクトには次のようなセンサーが装備され、エンジンの制御に利用します。

  • 目詰まりセンサー
  • 流量センサー
  • 圧力センサー

つまり吸気ダクトの目詰まりの状態、空気が流れる量、かかっている圧力などをそれぞれいつも感知しているのです。

そうした吸気ダクトには、その素材についてもいろいろ研究が進んでいます。スチール、ゴム、樹脂など、要求される性能や、価格を検討した上で最適な素材が選ばれます。
また、海外の、砂塵など空気に塵などが多い地域向けのトラックには「プレエアクリーナー」といって、サイクロン式の小さなエアクリーナーを吸気ダクトに内蔵したものもあるのです。

あきら

吸気ダクトってこんなに工夫がされているんだ!ぼくの鼻の穴どころじゃないよ!

マスター

繰り返すけれど、空気を吸い込まないとトラックは走らないからね

きょうこ

排気ガスのことも、もう空気を吸うところから考えられているのね

マスター

そうだね。結局空気を吸ってから吐き出すまでがひとつの流れだから、吸い込むときから工夫がされているんだ

きょうこ

しかも、エンジンの性能も高めなくちゃいけないし

あきら

タイヘンだなあ

マスター

さあ、掃除が終わったよ。注文は何にする?

あきら

今日はおいしい空気を吸ったからもういいや。帰るね

マスター

がくっ

こうして湘南台の喫茶店『いすゞCafe』では、マスターとカップルのよもやま話はつきることがないようである。

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