トラック大図鑑

教えて!「燃料タンク」のこと

ここは、神奈川県湘南台の喫茶店「いすゞCafe」。しぶいマスターが一人で切り盛りしている。
若いころはトラックドライバーとして活躍したらしく、
店にはそのころの写真や思い出の品が飾られている。
今日も地元の若いカップルが、おいしい珈琲に惹かれてやってきたようで・・・。

あきら

お腹減っちゃったー!マスター、サンドイッチにカフェラテをちょうだい!

きょうこ

あたしもサンドイッチにカフェラテ!

マスター

2人ともお腹ペコペコなんだね。トラックで言うと燃料タンクが空っぽってところかな

きょうこ

燃料がないと動けないものね

あきら

でもまあ、燃料タンクって、『タンク』っていうくらいだから単なる入れ物でしょ?これについては大した仕掛けなんてないよね?

マスター

いやいや、トラックの燃料タンクはね、驚くほど色んな工夫がされているんだよ

あきら

うーん。でも、ただの入れ物なのに?

マスター

それじゃあ、今日はトラックの燃料タンクの話をしようか。単なる入れ物じゃないってことがわかるはずだよ・・・

燃料タンク
取り付け工夫

普通の乗用車だと、燃料タンクはボディの中の見えないところに収まっていますよね。けれどトラックの場合は、フレームの外に置かれ、タンクの下側は荷台にも隠れずむき出しになっている場合がほとんどです。

「働くための車」であるトラックですから、熱い季節も寒い季節も長時間走り続けなくてはなりません。そうすると、むき出しの燃料タンクも直射日光や冷たい外気にさらされ続けることになります。また泥水がはねてかかったり、雪国ですと道路の融雪剤がかかったりもします。燃料タンクはそれらに耐える『耐久性』を考えた材質(主に金属製)で頑丈につくられているのです。
『耐久性』が必要な一方、燃費良く走るため、荷物をたくさん乗せるために、車体自体はできるだけ軽くしたいという要望もあります。なので、燃料タンク自体は『耐久性』に優れ、なお軽いものでなくてはならないのですね。

そして取り付け方にもいろいろな工夫がされています。

燃料タンクはトラックの背骨であるフレームに取り付けられていますが、他にもエンジン、トランスミッション、タイヤなど、いろんな部品が取り付けられているのでスペースの確保がたいへんです。
しかも、トラックは働く環境や使われ方によって燃料タンクの大きさが異なります。
たとえば長距離を走るトラックは大きな容量のタンクが必要です。日本を縦断して荷物を運んでいるようなトラックには、ドラム缶2個分にあたる400リットルもの容量のタンクがついていることもあります。また、燃料タンクを2つつけているトラックもあります。逆に、ゴミを回収する塵芥車や宅配の荷物を運ぶ配送車のように、一度にあまり長い距離を走らないトラックや、荷台に乗せるもの(架装物)が重いトラックは、コンパクトな燃料タンクが望ましいのです。
そんなトラックごとに適したタンクを、できるだけスペースを取らないように取り付けなければなりません。
また、外側に取り付けると言っても、むろん法規で決められている車体の幅を超えてしまうことは出来ません。低い床のタイプのトラックだと、悪路でタンクをこすってしまうことがないようにも気を配らなければなりません。
トラックの燃料タンクは、そんな色々な要望を加味しながら、しかも、そのスペースをできるだけ取らないように取り付ける工夫がされているのです。

あきら

トラックの燃料タンクって外から見えるんだ

マスター

外側に置くと、排気管やプロペラシャフトといった他の部品と配置が重ならなくて、燃料タンクのスペースを確保しやすいんだよ。それに燃料を入れる時も外側にある方が入れやすいしね

きょうこ

じゃ、その辺に止まっているトラックを見ればわかるのね

マスター

そうだね。目立たないけど、よく見るとわかる。しかもバンドで止めてあるスタイルが多いんだ

バンドで固定されている燃料タンク
きょうこ

ええ。なんかそんなので大丈夫なの?しっかり固定しないで・・・

マスター

もちろんはずれたりしないようちゃんと設計されているけれど、バンドで止めているのはトラックの動きと関係があるんだよ。

きょうこ

どうして?

マスター

高速道路で車線を変更したりカーブを曲がったりするとき、トラックにはねじられるような力が加わるんだ。バンドで止めるスタイルだと、その力が直接タンクに伝わらないよう、逃がすことができるんだよ。
バンド以外の方法で固定されている場合もあるけど、ちゃんとねじれの力を吸収できる工夫はしてあるんだ

あきら

いやあ。トラックの燃料タンクっていろいろ考えてあるんだね!

マスター

そうなんだよ。取り付けるだけでもこんなに奥が深いんだ

燃料タンク自身工夫

取り付けること自体大変な工夫がされているトラックの燃料タンクですが、その燃料タンク自身にもいろんな知られざる工夫があります。

1燃料が入れやすく、こぼれにくいこと

当たり前のことのようですが、いろんな条件に対応して取り付けてみたら、燃料が入れにくいということにならないよう、形状や取り付け場所が工夫されています。

2空気を吸い易く、雨水やゴミなどが入りにくいこと

実は燃料タンクは空気を「吸って」います。
エンジンに燃料が送られて、タンクの燃料が少なくなるにつれてタンク内の圧力は下がってきます。そこで適度に空気を取り入れて内部を一定の圧力で保ち続けるため、バルブ部分からタンク内に自然に空気が入るよう設計されています。
しかも空気は入ることができても、一緒に雨水やゴミなどが入ってしまうことがないような工夫もされているのです。

3最後まで燃料を吸えること

タンクの中の燃料が残り少なくなっても、最後まで吸い上げてエンジンに送る必要があります。坂道やカーブで、また加速や減速など車の大きな動きによって燃料がタンク内で動いても、残り少ない燃料がちゃんと吸い上げられるようにしなくてはなりません。
そこで、タンクの中は「バッフルプレート」という仕切りによっていくつかの部屋に区切られています。普段はプレートの下部にある小さな穴から燃料が行き来していますが、燃料が大きく動いたときにはプレートが燃料の動きを抑え、片側へ急激に集まらないようになっています。プレート以外にも、おわん型の仕組みを用いているタンクもあります。
これらの仕組みにより、残り少ない燃料をきちんと消費できるようにしているのです。

あきら

ええ!燃料タンクの中って空っぽじゃないんだ

マスター

そう。こんな仕掛けがあるわけだ

きょうこ

トラックの燃料タンクって奥が深いのね

マスター

なにせ燃料がないと走らないからね

あきら

ぼくのお腹の中にも、残り少ない燃料をきちんと消費する仕組みがあるみたいだなあ。さっきサンドイッチ食べたのに、もうお腹へってきちゃったよ

マスター

それじゃもう一皿追加する?

きょうこ

マスター、あきらくんのは単なる食べ過ぎだから、少し水や空気をまぜてあげて

こうして湘南台の喫茶店『いすゞCafe』では、マスターとカップルのよもやま話はつきることがないようである。

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