トラック大図鑑

教えて!「PTO」のこと

ここは、神奈川県湘南台の喫茶店「いすゞCafe」。しぶいマスターが一人で切り盛りしている。
若いころはトラックドライバーとして活躍したらしく、
店にはそのころの写真や思い出の品が飾られている。
今日も地元の若いカップルが、おいしい珈琲に惹かれてやってきたようで・・・。

きょうこ

マスター、あたしキリマンください

あきら

ぼくもキリマン。(マスターが珈琲豆を挽いているのを見て何か思い出した)マスター、今日、ミキサー車を見かけたんだ

マスター

駅前のビルの改装工事じゃないかな

あきら

うん。急に工事車両が増えたよね。で、ふと思ったんだけどね。あのミキサー車の後ろのコンクリートが入っている部分って、ずーっと回っているじゃない。あれはやっぱり電気で回してるのかな?だとしたらすごい電力が必要だなって

きょうこ

どこかに大きな発電装置があるはずだって、あきらくんが、さっきからうるさいんだもん

マスター

はは。見つかった?

あきら

それが見つからないんだ。どこに隠してるんだろ

マスター

おしえてあげようか。あれはね、実は電気じゃないんだ

あきら

え、違うの?

マスター

意外かもしれないけど、あの動力は電気じゃなくて、エンジンから取り出してるんだよ

きょうこ
あきら

エンジン!?

マスター

うん。『PTO』と呼ばれるシステムで、ミキサー車以外にも、ゴミ収集車や消防車みたいな動力を使うトラックによく使われている仕組みなんだ

あきら

全然、知らなかったよ

マスター

普通は目にすることのない仕組みだからね。でも、トラックが「はたらく車」として役立つために、とても重要なシステムなんだよ。そうだ、いい機会だし、今日は『PTO』について話してあげようか?

きょうこ
あきら

聞きたーい!

PTOとは?

そもそもトラックにはものを運ぶだけでなく、ダンプカーでは荷台を傾けたり、ミキサー車ではコンクリートが固まらないように後ろについたドラム部分を回転させたり、さまざまな機能が必要です。他にも、消防車は放水をしますし、ゴミ収集車はゴミをつぶしながら車体の奥におしこむ必要がありますね。そのような動力が必要なときに「PTO(Power Take Off)」という仕組みを使っています。

ではPTOをカンタンに説明しましょう。PTOとは、一言でいうと、「さまざまな作業をするための動力をトラックのエンジンから取り出す装置」のこと。エンジンのトランスミッションなどに取り付けられており、エンジンの回転を油圧に変換することで、さまざまな作業の動力を生み出しています。

先に述べたミキサー車のドラム部分を回したり、消防車が放水をしたり、そういった作業にはとても大きな動力が必要で、それらを電力で生み出すのはタイヘンです。専用の装置をつけなければならなくなり、そのためのスペースが必要になります。また、費用もかさみますし、トラックの重量もどんどん増してしまいます。そこで、あらかじめ搭載されているエンジンから効率よく動力を取り出すことができないか、その研究の結果、PTOが開発されたというわけです。ふだん目にすることはありませんが、PTOはトラックの作業を陰でしっかり支えているのですね。

あきら

PTOって、文字通り”縁の下の力持ち”なんだね

マスター

そう。ちなみに、電線の工事に使われる高所作業車や、自動車を運ぶ車両運搬車にもPTOが使われているんだ。ぼくらが気づかないだけで、けっこういろんなところで活用されているんだよ

きょうこ

PTOって頑張っているのね。感心しちゃうわ

あきら

あれ?でも、エンジンって走るためのものだよね。エンジンから動力を取ってしまって、他のことに動力を使ったら、トラックは走れないんじゃないの?

きょうこ

確かにそうね・・・。わかった!トラックを停めて作業しているんじゃない?

あきら

さっきのミキサー車はちゃんと走ってたじゃないか

マスター

ふむふむ。2人ともいいところに気がついたね。PTOはいくつかのタイプがあるんだけど、中には走行中も稼働できるものもあるんだ。今日、あきらくんが見たミキサー車がそのタイプ。走行中にドラムの回転がとまってしまったら、中のコンクリートが固まってしまうからね

あきら

ホントだ!よく考えられているなあ

マスター

詳しく見ていこうか

PTO種類

ダンプカーの荷台やミキサー車のドラム部分など、トラックの後ろの方を「架装物」といいます。架装物の機能に合わせ、PTOの取り付ける位置は異なります。もっとも一般的なPTOは、トランスミッションの横に取り付けられ、主に停車時に作動します(トランスミッションサイドPTO)。あきらくんが見かけたミキサー車の場合、走行中もドラムを回す必要がありますね。そこでエンジンに直接PTOを取り付けることで、走行中にも動力を取り出せるよう作られているのです(フライホイールPTO)。また、消防車など大きな動力が必要な車種もあります。そういった場合、停車時にエンジンの動力を100%取り出すため、エンジンとトランスミッションの間にPTOを取り付けるといった設定がされています(中挟みPTO(フルパワーPTO))。

このようにトラックは、作業に合わせてPTOを取り付ける位置を変え、さまざまな作業を効率的に行っているのですね。

あきら

なるほど、それならミキサー車も走りながらドラム部分を回せるね。いやー、PTOっていろいろ工夫されているんだねー

マスター

PTOは他にも細かい設定があって、架装物のメーカーとトラックメーカーが協力しながら開発しているんだ。けっこう奥深くておもしろい機能なんだよ

きょうこ

ところでマスター、コーヒー、そろそろ飲みたいなあ

マスター

おっと、ごめんごめん

あきら

マスターもおしゃべりしながらコーヒーを挽いたり淹れられたりするようになればいいね

きょうこ

1つのエンジンから別の動力を引きだすみたいに?

マスター

おかしな話になっちゃったなあ・・・

こうして湘南台の喫茶店『いすゞCafe』では、マスターとカップルのよもやま話はつきることがないようである。

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