トラック大図鑑

教えて!「エアタンク」のこと

ここは、神奈川県湘南台の喫茶店「いすゞCafe」。しぶいマスターが一人で切り盛りしている。
若いころはトラックドライバーとして活躍したらしく、
店にはそのころの写真や思い出の品が飾られている。
今日も地元の若いカップルが、おいしい珈琲に惹かれてやってきたようで・・・。

きょうこ

マスター、アイスコーヒー

あきら

ぼくブレンド。(マスターが腰をさすってるのを見て)あれ、腰が痛いの?マスターも年だなあ

マスター

お店の掃除で机を動かしたときにやっちゃったんだ、あたた・・・

きょうこ

コーヒー淹れるの手伝う?

マスター

きょうこちゃん、ありがとう。でも、軽いから大丈夫

あきら

この頃、車体を傾けて人を乗り降りさせるバスをよく見るけど、こういうときは大助かりだね

マスター

うん。車体と地面との段差が少なくなるからね、ありがたいよ

あきら

そういえば、あれって、空気圧で動かしてるんだよね

マスター

そのとおり。よく気づいたね、あきらくん。サスペンションの話でも言ったけど、エアーサスペンション(空気バネ)の空気を抜いて車体を傾けているんだ

きょうこ

確か、車の高さを調節する『車高調整』っていう機能じゃなかったっけ・・・

マスター

正解!ふたりともよくおぼえていたなあ。じゃ、トラックの中に空気の流れる道があるって知ってる?

あきら

空気の流れる道?

マスター

うん。トラックの中で血管みたいにはりめぐらされているんだ。で、その空気を貯めておくところが『エアタンク』という装置なんだけど・・・、なんかトラックの話をしていたら調子が出てきたぞ。よーし、今日はその話をさせてもらうね!

きょうこ
あきら

待ってました!

トラックエアタンクついて

現在大型トラックでは、さまざまな装置で「空気圧」が利用されていますが、そのための空気をためておくスペースが『エアタンク』です。では、今までに空気圧を使った装置はどのようなものがあったでしょうか。エアタンクのことがよくわかるように、空気を使った装置をカンタンにおさらいしてみましょう。

まずブレーキ。大型トラックはとても重いため、人間が踏む力だけでは足りません。そこでトラックは、ブレーキを踏む力を圧縮空気で倍増していることは以前お話ししましたね。その他、「HSA(ヒルスタートエイド)」などという坂道発進時のブレーキシステム制御のために空気圧が利用されています。この装置が付いているトラックでは、坂道でブレーキを踏むと空気圧がかかったままになるため、ペダルから足を離してもトラックが坂道を下っていきません。エアタンク内の仕切りつぎに発進するときにはクラッチを踏みこみギヤを入れ、クラッチをつなげるときに空気の力で信号が送られることにより自動的にブレーキが解除され平坦な道と同じように停車・発進ができるというわけです。また、ブレーキ以外にも、エアーサスペンション、トランスミッションなど空気圧を使っている装置はたくさんありましたね。あきらくんが見たバスの「車高調整」もエアーサスペンションの部品の空気圧を調整する機能を利用したものです。このようにトラックではさまざまな装置で空気が利用されており、各装置にうまく空気が行き渡るように“空気の通り道”が血管のようにはりめぐらされています。そして、その空気を貯めて置く場所が「エアタンク」というわけですね。

エアタンク内の仕切り

ではエアタンクはトラックにどれくらい積まれているのでしょう?空気を使った装置が搭載される場所はトラックの設計によって変わりますから、エアタンクの数や容量はトラックの車種によってそれぞれ異なります。車種によっては4~5個も積まれているのもありますが、スペースに限りがあるのでやみくもに積むわけにはいきません。そこで、ひとつのエアタンクの中を2部屋、3部屋と仕切り、別々の装置につなぐことが多々あります。設計者はギリギリまで数を削って、軽量化・省スペース化を図っているんですね。

あきら

へー、空気を使った装置についてはいろいろ聞いてたけど、あらためて考えてみると、空気はトラックにとってなくてはならない存在なんだね

マスター

そうだね。ちなみに他にも、クラッチの操作やバスのドアの開閉だったり、ちょっとした操作でも空気が使われているんだ。その空気をしっかり貯めて置くために、エアタンクは大切なものなんだよ

きょうこ

もし空気が漏れちゃったりしたらタイヘンなことになるわね

あきら

ホントだ。トラックを動かせなくなっちゃうよ!

マスター

うん。だからエアタンクや空気を使った装置なんかには、空気漏れが起こったときのための安全装置がしっかり搭載されているんだ。ちょっと詳しく話すね・・・

エアタンク安全装置

マルチプロテクションバルブ

トラックの空気に関係する装置には、空気漏れなどが起こったときにもトラックが制御不能に陥らないよう、さまざまな安全対策が施されています。例えばブレーキは、前後の2系統になっており片方が利かなくなってももう片方で止まれるようになっています。また、駐車ブレーキは、空気がなくなるとブレーキが利くような構造になっており、トラックが勝手に動くことがないようにしてあります。 どこかの配管から空気が漏れるようなことがあっても、そこの配管だけを遮断して、他の系統から空気が漏れないようにするために、「チェックバルブ(逆止弁)」「マルチプロテクションバルブ」という部品を利用しています。

このように現在の大型トラックはさまざまな安全装置を組み込むことで、万が一、空気が漏れたりなくなったりしても、安全のため、事故を未然に防ぐよう対策がとられているのですね。

あきら

なるほどね。これなら安心してトラックに乗れるよ!

きょうこ

うーん。トラックもわたしたち人間と同じね。空気がないと動けなくなるわけね

マスター

だからエアタンクに関しても、強度や大きさなんかに規制があって、それらに適合した製品が使われているんだよ。

あきら

うーん。空気を貯めておくっていうことには、大切な意味があったんだなあ

そこに運送屋さんがやってきた。

運送屋さん

こんにちは~。お荷物です

マスター

はい。あ、いててて

きょうこ

マスター、また腰にきちゃうわよ。あきらくん荷物を運んであげなさいよ!

あきら

はいはい。ここでいいの?

マスター

ありがたいなあ。あきらくんは空気の力のように助けてくれるんだね

きょうこ

本物のエアタンクと違って、あきらくんはすぐ空気が抜けちゃうけどね。フフフ

あきら

ひどいなあ(笑)

こうして湘南台の喫茶店『いすゞCafe』では、マスターとカップルのトラックに関するよもやま話はつきることがないようである。

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