バス大図鑑

教えて!「塗装」のこと

横浜の商店街の小さなレストラン「キッチンいすゞ」。
マスターは路線バスの運転手でしたが引退して、実家の洋食店を継ぎ、カウンター越しに、お客さんとの会話を楽しみながら、おいしいランチを提供しています。
常連のお客さんにバスの話が大好きな親子がいて、今日もやってきたようです。

ムスコくん

いや〜!焦った〜!

マスター

いらっしゃい。どうしたのですか?

ムスコくん

いや、今日水族館に行く予定だったんだけど、お父さんが寝坊してしまって、バスに乗り遅れそうになったんだよ…

お父さん

いやぁ、すまんすまん。昨日仕事で遅くなってしまって…

マスター

それは大変でしたね

ムスコくん

しかも、バスターミナルにいくつもバスがあって、どれに乗るのかわからなくて…お父さんが「あっあのバスだ!」ってすぐわかったから助かったけど

お父さん

あのバスは昔からあの色だからね

マスター

なるほど。じゃあ、二人はバスの「塗装」のおかげで間に合ったわけですね?

お父さん
ムスコくん

ん?そうなの?

塗装に求められる役割とは?

塗装には、さまざまな役割があります。よく知られているのが、「サビ予防(防錆)」です。
バスの素材としても使われている金属は、空気や水にふれると「酸化」という反応が起こり、サビが発生します。さまざまな塗装を施すことによって、サビを予防しているのです。

そして、バスだからこその役割もあります。それは、お父さんが「あっあのバスだ!」とすぐに選べたように、遠くからでも一目でわかるデザインにすること。特に路線バスは色、ライン、文字など、細かいところまでバス会社固有のデザインが決まっており、大きく変わることはあまりありません。バスのデザインは長年“地域の顔”として親しまれてきたものなので、急に変えてしまうと乗る人が混乱してしまうからです。

1台1台ハンドメイド特徴!

バスの塗装は乗用車やトラックのように決まった色で塗られることはありません。そのため、1台1台手作業で塗られているのが特徴です。その流れを見ていきましょう。

フレーム部品や外装部品

フレームボディ外装は、電着塗装と呼ばれる方法でサビ予防をします。電着塗装とは、その名の通り電気を使って塗膜をつくる塗装のことで、スプレー塗装よりも効率的かつ均一に塗ることができます。

電着塗装の様子

大型バスボデーをも丸ごと処理できるフルディップ式電着塗装です。

動画掲載協力:ジェイ・バス(株)

ボディ

ボディの塗装の流れは次の通りです。

1脱脂(下処理)

ボディの素材である鋼板は油や汚れがついているため、溶剤などを使ってきれいにしていきます。

2下塗り

サビの防止や、中塗り・上塗り塗装の効果を発揮させるために行う、下地づくりです。

3中塗り

下塗り塗料の凸凹をならして平滑な面をつくる、上塗り塗料の吸い込みを防ぐ、仕上がりを良くするなどの役割を担います。

4上塗り

バス事業者固有のカラーを用意して、車両を塗装していきます。

5デザイン塗装

デザイン塗装では、テープやフイルムなどを使って1台1台にマスキングを行い固有のカラーを塗装していきます。色数が多いときや複雑なデザインのときは、マスキングと塗装を繰り返し行って完成させます。

その後、室内塗装をして、車両組み立てに移ります。また、完成後には床下の防錆塗装も実施します。

ボディ塗装は路線バスを例にすると15~18の工程があり、日数にして3〜4日かかります。バスという大きな車両を塗装するため、デザイン塗料の吹付けは2名で行います。また、下・中塗り塗装はロボットが実施します(観光バスは上塗りまでロボット塗装を行っています)。

ボディ塗装の様子(路線バス)

動画掲載協力:ジェイ・バス(株)

ボディ塗装の様子(観光バス)

動画掲載協力:ジェイ・バス(株)

デザインを実現するため隠された工夫

バスならではのデザインを実現するために、実は「車体面積の大きさ」も工夫されています。
特に車両前面は、バスを待っている人から最も目につきやすい場所になるので、より大きく塗装面を取れるように設計しています。また、外観の塗装はバス会社の特別仕様となりますが、色によっては塗料の劣化などが起きやすい場合もあるので、過去の経験から塗料を足す、変えるなど、常に品質の向上を図っています。

ムスコくん

1台1台丁寧に、そのバス会社ならではのデザインを実現しているんだね!

マスター

そうなんです。バスのデザインは長年地域の皆さんに親しまれているので、どんなに細かいところでも変えるにあたっては慎重に検討するそうですよ。バスメーカーもバス専用の色見本帳を用意して、細かい要望に応えられるようにしているのです。

お父さん

確かに、今日乗ったバスも細かいところは変わっているけど、子供の頃から親しんだ色だから迷わなかったな

ムスコくん

バス会社のカラーが決まっているなら、これから変わっていくことって少ないの?

マスター

実はそんなことはないのです。バスの塗装は進化し続けているのですよ!

環境にも人にもやさしい塗料進化中!

皆さんは「シックハウス症候群」という言葉を聞いたことがありますか?シックハウス症候群とは、建材等から発生する化学物質などによる室内空気汚染等とそれによる健康影響のことです。近年は、車づくりにおいても車内環境への配慮が重要視されており、シックハウス症候群の原因となる物質の低減に取り組んでいます。特にバスは、大勢の人が長い時間過ごす乗り物であり、生活環境の一部として扱われるため、環境規制物質の低減が強く求められています。

そのなかで進んでいるのが、低VOC(揮発性有機化合物)塗料への切り替えです。VOCとは、大気中で気体となる有機化合物(化学物質)の総称で、溶剤やガソリンが揮発したトルエンやキシレン、金属や機器の洗浄に使われるトリクレン(トリクロロエチレン)、二塩化メチレン(ジクロロメタン)などが代表的です。このVOCはシックハウス症候群の要因になるため、それらが少ない塗料への移行が進んでいるのです。

また、現在では、お客様が乗るバスの車内にVOCが一切配合されていない「粉体塗装」と呼ばれる塗装の割合が増えています。「粉体塗装」とは粉チーズのように熱を加えると粉が膜になるようなものです。近年は感染症予防の観点から、つり革や握り棒など人が多く触れる部分に抗菌タイプの粉体塗装を導入し始めています。

ムスコくん

色は変わっていないように見えても、中身はこんなに変わっているんだ!

お父さん

よく触る部分に抗菌の塗料が塗られているのはありがたいなぁ

マスター

これからも使う人・作る人にやさしい車両が求められるでしょうし、低VOC塗料への移行がますます進むでしょうなぁ。…ということで、今日のオムライスはお二人の健康を考えて、ピーマンマシマシにしてみました!

お父さん
ムスコくん

う〜ん、そこはいつもどおりが良いかも……