バス大図鑑

教えて「バスの非常時対策」のこと

大森の商店街の小さなレストラン「キッチンいすゞ」。
マスターは路線バスの運転手でしたが引退して、実家の洋食店を継ぎ、
カウンター越しに、お客との会話を楽しみながら、おいしいランチを提供しています。
常連のお客さんにバスの話が大好きな親子がいて、今日もやってきたようです。

ムスコくん

マスター、今日も路線バスに乗ってきたよ!

マスター

雨が上がってよかったですなあ。夜はひどい雨でしたからなあ

お父さん

近ごろは、ゲリラ豪雨っていうの? あっという間にふつうの道が水に浸かっちゃうほど降るから恐いね

ムスコくん

バスって、どんな時にも安全な乗り物だから大丈夫だよね……?

マスター

さすがに危険な大雨の時なんかはバスの運行を止めますなあ

お父さん

そう言えば、バスに乗っていて万一の時ってどうするの?

マスター

バスを作るメーカーも、バスの事業会社さんも、そして運転手さん、バスに関わる人はみんな、バスに乗る人の安全安心を考えていますよ

ムスコくん

ほら! やっぱりバスって大丈夫なんだよ

マスター

もちろんバスメーカーなどの力だけではどうにもならないこともあります。しかし、できる限りの対策は立ててあるのですな。今日は『万一の時(非常時)』のお話をしましょうか……

まず、バスにとっての『万一の時』(非常時)ってどんな場合が想定されるでしょう?

「バスが走っているときに、交通環境に大きな問題が生じた場合」です。

それはどんな場合? いくつかのパターンに分けて考えてみます。

  1. 天災(大地震、落雷、津波など)が起きたとき
  2. 事故などに巻き込まれたとき
  3. 車両に何らかの問題が起きたとき
  4. バスの乗客がトラブル(犯罪を含む)を起こしたとき
  5. バスの運転手さんの体調不良などにより運転に支障が生じたとき

これらが非常時といっていい状態ではないかと思います。

それぞれを「バスの乗客」の立場で見ていきましょう。

1天災(大地震、落雷、津波など)が起きたとき

まず大前提としてバス運転手さんの指示に従ってください。どうしてもバス乗車中に車両の外に脱出しなければならない場合には、車両の乗降口を手動で開けることができます。また車両に設置されている非常口も手動で開けることができるようになっています。

2事故などに巻き込まれたとき

こちらも、まずバス運転手さんの指示に従ってください。脱出方法は「①天災など」に同じです。万一、事故などによりエンジン火災が生じる場合に備えて、バスには火災警報装置を設置している車両もあります。これが運転手さんに火災を伝えますので、火災の場合も運転手さんが適切に判断し、乗客に指示してくれます。

3車両に何らか問題が起きたとき

バス車両じたいに何かトラブルが発生した時には、警告灯や警報音(ブザーや音声警報)が運転手さんへ知らせるようになっています。その後は運転手さんが適切に判断して、必要があれば乗客に指示をしてくれます。

4バスの乗客がトラブル(犯罪を含む)を起こしたとき

乗降中注意灯のSOS表示

過去にはバスジャック(悪い人がバスを乗っ取ろうとして運転手さんや乗客をおどすこと)の事件がありました。この場合には、運転手さんが機器を操作して、ただちに危険な状態にあることを車外に知らせます。

バスジャックなどの非常事態のときには、バスの「行先表示器」に「今バスが非常事態であることの表示」、「乗降中注意灯にSOSを表示」します。また、車両後部に丸い青ランプが設置されており、点灯している際もバスジャックなどの不測の事態を知らせます。これらは周囲に知らせ、警察に緊急連絡してもらうためのものです。

(注)この装備はバスの運行を担う事業者や機器のメーカーによって表示の仕方が違ったり、そもそも装備していなかったりということもあります。

バスジャック警告灯(左)/観光バスのバスジャック警告灯の位置(右)

5バスの運転手さんの体調不良などにより運転に支障が生じたとき

非常時には、基本的に運転手さんの指示に従うことが前提ですが、もしバス走行中にその運転手さんが急病になってしまったときには乗客の協力が必要です。バスには「ドライバー異常時対応システム(EDSS)」があります。こちらの詳細については『教えて「先進安全技術」のこと』を参照ください。

路線バスの場合、ドライバーに異常がある場合に、乗客が非常スイッチを押せば、車両を安全に停止させることができます。観光バスは路線バスと同じ機能に加えて、一定の条件下であれば、「何か運転がおかしい。ふつうじゃない」と運転手さんの異常を検知して、自動で車両を停止します。

非常停止スイッチ(左:路線バス/右:観光バス)

ドライバー異常時対応システム(EDSS:Emergency Driving Stop System)作動イメージ

路線バス作動イメージ
観光バス作動イメージ
ムスコくん

バスってやっぱり非常時のことも考えて作られているんだ!

お父さん

こんなにいろんな場合を想定して、その対処が考えられているとはね

マスター

基本的に運転手さんの指示に従っていただくわけで、何か乗客にお願いするのは運転手さんが病気などで倒れたとき、『非常停止スイッチ』を押すことだけですかなあ

お父さん

うん。ある場所を覚えておくといいな

ムスコくん

あと、走っているバスがSOSを出したのを、気がついてあげることだよね!

マスター

『あ、何かたいへんそうだ!』って気がつくことですなあ。まだ非常時に関することはいろいろありますよ……

後車室のインターホン

『教えて「連節バス」のこと』で出てきた連節バス。このバスは前車室と後車室に分かれています。後車室に乗っている乗客は運転手さんとの距離が離れているため、連節バスの後車室にはインターホンが取り付けられています。何か異常が生じた際には、後車室の乗客はこのインターホンで運転手さんと通話することができます。

また、バスには非常時に使用する機器やツールなどが備えられています。

路線バスも観光バスも非常時に使用するもの(例えば消火器など)は運転席の周りに装備されています。また、非常口は車両後方右側に設置されています。

(注)非常口についてはバスのメーカー/車型によって差異がある場合があります。

ムスコくん

やっぱりバスは安全安心な乗り物だね!

マスター

ムスコくんもお父さんと一緒に出かけたくなったでしょう!

お父さん

いや、近ごろはひとりでバスに乗りたいと言い出しはじめたんだ……

マスター

あらまあ。ムスコくんのバス好きはさらに進化しましたか

ムスコくん

マスターにもいろいろ教えてもらったし、もうひとりで行けるよ! だって安全な乗り物なんだから!

お父さん

ムスコが旅立つのは淋しいなあ……

ムスコくん

お父さん大げさなんだよ! バスに乗るだけなんだから(笑)

マスター

ひとりでバスに乗っても、この店にはぜひ立ち寄ってくださいな。わたしはずっとここにいますよ

今日も「キッチンいすゞ」では楽しいバス談議が続きます。