バス大図鑑

教えて!「空調」のこと

大森の商店街の小さなレストラン「キッチンいすゞ」。
マスターは路線バスの運転手でしたが引退して、実家の洋食店を継ぎ、
カウンター越しに、お客さんとの会話を楽しみながら、おいしいランチを提供しています。
常連のお客さんにバスの話が大好きな親子がいて、今日もやってきたようです。

ムスコくん

マスター、今日も路線バスに乗ってきたよ!

マスター

今日は暑かったでしょうなあ

ムスコくん

ううん。バスの中はエアコンが効いてて気持ちよかったよ

お父さん

お父さんが子どもの頃はバスにエアコンがなくてさ

ムスコくん

ええっ!そんなの夏とかどうしてたの?

お父さん

扇風機があったかなあ……。あとはみんな扇子や団扇でパタパタあおいでいたような気がする

マスター

そんな時代がありましたですなあ!バスの空調はものすごく進歩しました。今日はそんなお話をしましょうか

路線バス空調システム

まず、「路線バス」の空調からお話ししましょう。路線バスの空調は次の3つのシステムから成り立っており、それぞれ別々の機器として車内に備わっています。

路線バスの空調の仕組み

1冷房

路線バスに乗ったことがある人ならおわかりでしょう。窓の上に「吹き出し口」があり、そこから冷たい風(冷風)が出て、車内を涼しくしてくれますね。
路線バスの冷房の仕組みは、バスの屋根の上にある「パッケージクーラー」によって、車内の空気を冷やして窓の上の「吹き出し口」から冷風を送るのです。効率よく冷やすため「内気循環(車内の空気を循環させる)」という方法をとっています。

2暖房

座席シートの下にあるヒーターから温かい風(温風)が出て、車内を暖かくしてくれますね。
路線バスの暖房の仕組みは、エンジンの冷却水の熱を利用して、座席下のヒーターから温風を送ります。こちらも効率よく暖めるため「内気循環」という方法をとっています。

3デフロスター

デフロスターは、バスのフロントガラスに温風を吹き出して、フロントガラスの車外の霜取りをしたり、車内の曇りを晴らすために使います。デフロスターについては、「内気循環」と「外気導入(車外の空気を取り入れ)」が選べるようになっていますが、「内気循環」は車内が曇りやすいので、その時は「外気導入」を選びます。

次に「観光バス」の空調です。観光バスは次の2つのシステムから成り立っています。

観光バスの空調の仕組み

1オートエアコン

観光バスのオートエアコンは、あらかじめ温度を設定することで、自動で車内の温度を保ってくれるものです。窓の上の吹き出し口からは温風と冷風、客席下のダクトからは温風を吹き出して、乗客が快適に過ごすことができるようになっています。また、風量も細かく(たとえば16段階)調整できるようになっています。
また、路線バスと違い、「内気循環」と「外気導入」での空調運転を行うことができます。
内気や外気の汚れを検知した時には、自動で「内気循環」と「外気導入」を切り替えてくれる「換気制御機能」を備えているのも特徴です。

2デフロスター

観光バスにも路線バス同様デフロスターを備えていて、フロントガラスの曇りを晴らすことができます。

実は、もともとバスの空調は観光バスのほうから普及が進んだのです。それは乗客の快適性向上がねらいでした。路線バスに冷房が普及していくのは1980年代になってからです。

その時代では「サブエンジン式」と呼ばれる「冷房専用エンジン」を搭載して、車内の冷房に使っていました。しかし、同じバスにエンジンが2つあることで、燃費の悪化につながり、騒音が大きくなってしまうことが問題とされました。

そこで現在では、「メインエンジン直結式」と呼ばれる方式が主流になりました。これは、駆動用エンジンから動力を分けてもらって冷房に使う方法です。これによって、冷房用、駆動用の2つのエンジンを作動させる必要がなくなり、燃費は向上し、騒音も低減させることができるようになったのです。

ムスコくん

バスの空調ってそんな工夫がされてるんだ!

お父さん

知らない間にこんなに進化してたんだね!

マスター

とくにバスは『換気性能』には気をつかっています。路線バスにはベンチレーターファン(換気扇)がついていて、車内の空気の入れ替えができるようになっています。また、観光バスではオートエアコンに外気導入がついているので、いつでもバスの車内は新鮮な空気を取り入れることができるようになってますからなあ

お父さん

換気は大事だね!

ムスコくん

このお店くさくない?

マスター

それはさっき私が揚げ物をしたからですなあ。私の店のことはいいですから、もう少しバスの空調のお話を続けましょう。バスの空調の性能は普通乗用車と比べてかなり違うんですなあ……

空調性能

路線バスのベンチレーターファン

言うまでもなく、バスの車内は広く、路線バスにおいては、乗客の乗り降りのたびに扉を開け閉めするので、乗用車に比べて4~6倍の能力を持つ冷房が備わっています。

乗用車にも、冷房・暖房・デフロスターの機能がありますが、それは1つのユニットでまかなっています。ところが路線バスの場合、前述のように冷房・暖房・デフロスター機能はそれぞれ別のユニットでまかなっています。

現在のバスの冷房は乗用車同様にエンジンからの動力で動かしているので、冷房によってエンジンのパワーを使ってしまいます。そのため、バスの発進時などエンジンのパワーが必要な時は、冷房を自動で弱めて、なるべくエンジンのパワーを使わないという工夫がされています。

さて、運転手さんはこれらの空調の操作をどうやっているのでしょうか?

路線バス

冷房は「冷房コントロールパネル」で風量や設定温度を操作します。
暖房は「ヒータースイッチ」で風量を操作します。
デフロスターは、「デフロスターコントロールパネル」を操作し、風量、吹き出し口の切り換え(デフロスターと運転席足元)、内気循環/外気導入の切り換えを行います。

冷房コントロールパネル
ヒータースイッチ
デフロスターコントロールパネル
観光バス

冷暖房はオートエアコンとなっており、内気循環、外気導入の切り替えも行うことができます。コントロールパネルで設定温度を設定することで客席を快適な温度に保つことができます。
デフロスターは、路線バス同様「デフロスターコントロールパネル」によって操作することができます。

オートエアコンコントロールパネル
デフロスターコントロールパネル
ムスコくん

バスが快適なのは、こんなに空調が工夫されているからなんだね

マスター

乗客が快適に過ごせるように、運転手さんもしょっちゅう気を配っているんですよ。私が運転していたころは違って、こうしてコントロールパネルで楽々操作できるんですなあ!

お父さん

うーん。観光バスで快適な旅をしたくなってきたなあ

ムスコくん

行こうよ!バス乗りたい!

マスター

ほんとうにお二人は仲がいいですなあ

お父さん

われわれの家庭はバスのおかげで『風通し』がいいんですよ!

今日も「キッチンいすゞ」では楽しいバス談議が続きます。