コロナ禍の影響で食品需要に変化
東京都調布市に本拠を構える株式会社キユーソー流通システムは、大手食品メーカーであるキユーピー株式会社の物流子会社として1966年に設立される。食品に特化した4温度帯(常温・定温・冷蔵・冷凍)に対応できる物流拠点や輸配送ネットワークに加え、情報システムなどを有するアセット型3PL事業者として高度な物流体制を築き上げてきた。少量多品種商品を配送する共同物流サービスをはじめ、スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストア、外食チェーン向けの専用物流サービス、小口の冷凍・冷蔵食品をスピーディーに全国に輸配送するキユーソースルー便を展開するなど、付加価値の高い物流サービスを提供している。また同社は、物流業務の実働をコントロールするだけではなく、物流戦略の企画立案からシステム開発、物流センターの設計エンジニアリングを手がけるなど、顧客のビジネスパートナーとして様々な物流課題を解決してきたという。こうして50年以上にわたる事業活動でノウハウや物流技術を培ってきた同社は、食品物流のパイオニアからリーディングカンパニーへと成長を遂げた。

同社の事業規模について、グループ事業拠点の合計は全国150カ所以上、グループ会社15社(運送会社、センター運営会社等)のほか、全国の協力運送会社で組織する「キユーソー創栄会」の加盟会社は70社以上にのぼる。顧客数は1,000社を超えているという。
取締役会長 西尾 秀明 氏
- 会社名
- 株式会社キユーソー流通システム
- 所在地
- 東京都調布市調布ケ丘3-50-1
- 設立年月日
- 1966年2月1日(創立)
- 代表者
- 取締役会長 西尾 秀明
代表取締役社長 富田 仁一
- 従業員数
- 675名
それでも、先般のコロナ禍の影響は大きかった、と取締役会長の西尾秀明氏は話す。
「食品を取り扱っている当社は、日頃から衛生面を徹底していたこともあり、スムースにコロナ禍対策を講じることができました。グループ内での感染者も少なく、業務に支障を来すこともありませんでした。しかし、食品業界は外食産業、観光業(インバウンド)が不況となり、業務用の食品の出荷量が大幅に減少。現時点においてもコロナ禍以前の出荷量には回復していません。飲食店の減少や消費者の食生活の変化などが、その要因と考えられます。一方でコロナ禍によって必要以上の作業や使わない資料の作成などが減りました」
西尾会長は、コロナ禍に起因する食品需要の変化は当面続くと予想している。
グループの強みを活かし新たな物流分野へ進出
同社グループの強みは4つの温度帯の品質管理をサプライチェーンで実現すると共に、グループの総合力を活かして、顧客にワンストップでソリューションを提供できるところである。また「内食」「中食」「外食」と、すべての食事にかかわっている。
そんな同社の第7次中期経営計画(2022年11月期~2024年11月期)のテーマは「徹底力で体質強化」。「機能の強化」「環境変化への対応」「海外展開の基盤拡充」「新領域への参入」の4つを基本方針として取り組んでいる。
海外事業では、事業の安定化と、さらなる展開に向けた基盤強化を進めているという同社。西尾会長は、3カ月に1回現地に足を運び、状況を視察しているそうだ。
「当社は、2006年に上海(中国)に進出し、低温の保管配送や上海発着の長距離輸送、タンクローリーによるバルク輸送などを手がけています。2020年には堅調に成長を続けるインドネシアに進出。ASEANにおけるコールドチェーンネットワークの構築を進めているところです。経済成長と共に人口も増加しているインドネシアは、物流市場としてのポテンシャルが高く、今後も積極的に投資を行っていく方針です」
また同社は、「機能の強化」「環境変化への対応」の一環として、業務提携してきた三菱食品株式会社と共同出資し、新会社「エル・プラットフォーム株式会社」を設立(2023年10月)。両社の食品物流事業の一部を統合し、主に首都圏で高品質な低温物流事業を展開しているという。また「新領域への参入」として、独自の温度管理技術を活かし、三菱倉庫株式会社と業務提携を行い医薬品分野をはじめ、新たな物流業務の獲得、新規サービスの開発も注力していくそうだ。
「2024年問題」を機に魅力ある物流業界へ
さて西尾会長は、同社に着任した当時から過度に荷主に依存する業界体質に疑問を抱いていたという。そこで「2024年問題」を物流業界全体の体質を抜本的に改善する好機と捉え、ドライバーの労働環境や労働条件を見直すと共に、魅力ある職場づくりを進めているそうだ。
取締役会長 西尾 秀明 氏
「私が、この会社に着任して気づいたことは、倉庫や車両はきれいだが、多くの施設の一部が老朽化していたこと。これでは人材を確保できないと考え、各拠点のトイレ、休憩所を改修しました。また物流業界は、すべてお客様に命じられるがまま仕事をしていることがわかりました。しかも不当に運賃が安く、値上げをお願いしても断られることも少なくありません。このままでは物流業界が疲弊するばかり。さらに『2024年問題』がドライバー不足に拍車をかけています。これは単なる運送会社の労働時間短縮の問題ではありません。なぜなら、時間外労働や拘束時間に上限が設けられることで、ドライバーの残業代が減り、さらなる賃金低下が予想されるからです。ただでさえ産業界で最も低賃金と言われる運送業界。これ以上賃金が減れば離職するドライバーが増えるでしょう。慢性的なドライバー不足が続けば、荷主の要望どおりに商品が運べなくなります。この問題は、当社の取り組みだけで解決できることではなく、お客様の協力が必要不可欠です。今までは我々が選ばれる立場でしたが、これからは我々が顧客を選ばざるを得なくなるかもしれません」
と真剣なまなざしで語られた西尾会長は、待機時間や付帯作業の緩和、ルールづくり、料金化を進めると共に、昨年12月より全国70社の協力運送会社に対する運賃値上げを決断し、ドライバーの賃金維持に努めたそうだ。次のステップは、規定の労働時間で全産業並みにドライバーの賃上げを実現することだという。さらに輸配送及び倉庫業務の効率化を図ると共に、ドライバーの安全を確保するためウェザーニューズ社より、いち早く気象情報を入手できるようにした。自然災害被害(台風・大雪等)が予想される場合は、事前に納品日の調整や受注分散を顧客に要請すると定めたそうだ。
西尾会長は代表取締役退任後の仕事として、物流の安定化に道筋をつけたいと考えている。
「2024年問題」の課題と対策
“つなぎ手”の価値を多くの人たちに伝えていく
西尾会長の嫌いな言葉は「送料無料」。逆に好きな言葉は「物流を制する者は世の中を制する」だそうだ。ドライバー不足が深刻化したことで、ようやく世の中も物流の重要性が認知されるようになったという。
「近江商人の“三方よし”には売り手と買い手、世間の人々が登場しますが、物と物を結びつける“つなぎ手”が見当たりません。この“つなぎ手”がいるからこそ、商いが成立し、社会にも貢献できるわけです。物流の価値が多くの人に理解されれば、ドライバーが自信と誇りが持って働けるようになるでしょう。そこで、私は今年2月に大型自動車免許の取得に挑戦しました。取得してわかったことは、大型トラックの運転が思いのほか特別な技能だということです。運転中は、車高や車幅、死角、車間距離など、乗用車の数倍も注意が必要です。さらにドライバーは、運行中積荷にも気を配りながら運転しなくてはなりません。免許を取得したことで、お客様に対して、より説得力のある説明ができるようになったと思います」
大型トラックギガにも試乗したという西尾会長。アクセルワークもシフトチェンジも自動制御してくれる「スムーサーGx」の優れた操作性に感心したそうだ。さらに、ドライバーの異常を検知して、車両を自動で停止させる「ドライバー異常時対応システム」(EDSS)の滑らかなブレーキ性能にも驚いたという。ちなみに、グループ企業のキユーソーティス株式会社では、輸送効率化のニーズに応えるため、今年5月にギガ3軸低床車が2台導入されている。
キユーソー創栄会と共に全国の食品物流を支える

KRSグループの運送機能を担う中核企業として、食品物流の一翼を担ってきたキユーソーティス株式会社。同社は全国に営業所24拠点を設け、独自のネットワークを活用して、都市間を結ぶ幹線輸送をはじめ、各地域における地場配送を展開。さらに、これらの輸配送を組み合わせた効率的な輸配送サービスを提供している。現在1,000台以上の車両を保有しており、その80%以上が冷凍・チルド輸送に対応した温度管理車だそうだ。同社は、食品輸送のスペシャリストとして、4温度帯の食品を365日24時間体制で日本全国へ運んでいる。
- 会社名
- キユーソーティス株式会社
- 所在地
- 東京都調布市調布ケ丘3-50-1
- 設立年月日
- 1962年7月(創業)
- 代表者
- 代表取締役社長 赤松 淳
- 従業員数
- 1,419名
- 保有車両台数
- 1,008台

協力運送会社の車両を含めると1日に約5,500台が稼動しているという食品物流。その共同輸配送を支えているのが、全国の協力運送会社が加盟するキユーソー創栄会である。1989年に発足した同会には約70社が加盟。KRSグループの運送事業チーム(共同体)として、相互に情報を共有し、物流機能を活用することで高品質な輸配送を実現している。その活動も活発で、毎月、経営部会と実務部会を実施して、実務上の課題などを協議して改善策を講じている。さらにテーマを定めて研修会やドライバーを対象とした全国技能競技大会を開催するなど、様々な活動をとおして運送事業者の業務技術及び社会的地位の向上をめざしているそうだ。
KRSグループとキユーソー創栄会の共同事業である全国小口輸配送システム「キユーソースルー便」は2000年に開始した物流サービスである。全国に約40カ所のベースセンター(BC)とエリアセンターを設け、冷凍・冷蔵食品の無在庫型(スルー型)物流システムを提供している。この仕組みは、会員企業が独自に受注した仕事にも活用可能。まさに、KRSグループとキユーソー創栄会のWin-Winの関係を象徴する仕組みと言えるだろう。
運賃・料金交渉はこれからが正念場
懸案事項の「2024年問題」については、繁忙期に車両不足に陥ることがあり、現在はKRSグループやキユーソー創栄会と一丸となって対策を講じているという。代表取締役社長の赤松淳氏は、早急にドライバーの働き方改革を推進する必要があると話された。
「この問題は、ドライバーの労働時間を短縮するだけでは不十分。同時にドライバーの給与をベースアップし、さらに福利厚生の充実、キャリア形成の支援などを含めた職場づくりが求められています。そうしないと、今後ドライバーという職業を選んでくれる人が増えませんからね。『2024年問題』をきっかけに、ドライバーに対する負のイメージを払拭していかなくてはなりません。コロナ禍の頃、ドライバーは社会を支える“エッセンシャルワーカー”として感謝されました。本来ドライバーは、社会的地位やステータスが低い職業ではないのです。一方で、食品は物流費などの高騰を理由に値上げラッシュが続いていますが、その分運賃に還元されているとは言いがたい状況です。KRSグループ及び協力運送会社は、西尾会長の経営判断のもと、昨年12月に運賃値上げに踏み切りましたが、それでも、ドライバーの給与を現状維持するのがやっと。本当の運賃・料金交渉は、これから正念場を迎えます。協力運送会社の皆様にも正当な運賃が認めらえるように、しっかり支援していきたいと考えています」
ドライバーが働きやすく成長できる職場をつくる
同社では、とにかくドライバーを確保することが喫緊の課題だという。つまり「運ぶ能力」がなければ、肝心の交渉の場にすらつけないということだ。したがって、今後は在籍するドライバーの定着率を高めていくことも重要になる。経営戦略室の乾駿人氏に人材戦略についてお話しを伺うことができた。
物流技術管理士
「福利厚生や評価制度、勤務体系については、早急に見直しを進めています。とにかく稼ぎたい人、きちんと休みをとりたい人、ドライバーによって考え方が異なります。なるべく、多くのドライバーが満足できる制度や仕組みを導入したいと考えています」
また同社では、ドライバー教育にも注力しており、すでにキャリアや能力に応じた研修も実施しているという。具体的には、昨年から無事故無違反のベテランドライバーを対象にリカレント教育を始めたそうだ。あらためて運転技術や交通法規を学び直すことで、安全運転スキルを向上させたいという。
“行動力、実行力、徹底力”をモットーに事業に邁進する
最後に赤松社長に今後の展望についてお話しを伺った。
「今年の12月からは、KRSグループの新たな中期経営計画がスタートします。当社は“行動力、実行力、徹底力”をモットーに運送業務、人材教育に取り組んで行く所存です。また当社としては車両数、営業拠点数を1割程度増やしたいと考えており、目標達成に向けて事業に邁進してまいります。車両は性能、サービス共にいすゞさんを評価しています。今年は高積載、高容積に優れたギガ3軸低床車を仙台営業所に導入しました。ドライバーの評価も良く、輸送の効率化に貢献してくれるものと期待しています」
今後もモーダルシフト化、車両のトレーラ化、中継輸送も拡大していくという同社は、規模の優位性と輸送品質の高さで収益力を高めていく方針だ。
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