“3つのN”で地域に根ざした輸送企業に成長
盛岡市(岩手県)と八戸市(青森県)の中間地点、岩手県内陸北部に位置する岩手県二戸郡一戸町は、北上山地と奥羽山脈に囲まれた丘陵地で、町の総面積の61%を山林・原野が占める高原の町である。
町の南部、奥中山高原を背景に本社を構える有限会社中山運送。同社を訪れると、代表取締役社長の田島祐一氏と、グレーの毛並みが印象的な一匹の猫が、人懐っこい鳴き声で出迎えてくれた。田島社長のお話によれば、数年前に、どこからか突然現れて居つき、放っておけなくなり、会社(本社オフィス)で飼うことにしたのだとか。何でも“幸運をもたらす猫”なのだそうで、今では、従業員たちを癒やしてくれる会社のマスコットとして可愛がられている。
さて、同社は、田島社長の父上が、1963年に創業した運送会社である。当時は、蒸気機関車が三重連で牽引しなければ、多くの貨物が運べない山深い地域で「輸送事業で地域経済の発展に貢献したい」という想いから、運送業を始めたのだという。設立当初は、地場で生産された木炭や生乳、農産物のほか、肥料などの輸送を手がけていた。19歳で同社に入社された田島社長は、ドライバーとして勤務。給食用の牛乳配送や地場の鉄工所の鉄骨、建設資材などを運んでいたという。それから10年ほどが経過した頃、自ら申し出て2代目社長に就任。このとき、田島社長は28歳。並々ならぬ覚悟の上で会社を引き継いだという。
「当時、創業から20年が経過していましたが、車両は8台に留まり、経営状態は低迷していました。そこで、経営を立て直すので任せてほしいと父を説得。新規の取引先獲得に向けて営業活動に邁進すると共に“3つのN”からなる経営理念を定め、経営の立て直しを図りました。そのひとつは仲間(Nakama)を大切にする組織づくり。経営の根幹をなす人材育成に取り組みました。二つ目は、我々を育んできた一戸町の豊かな自然(Nature)を大切すること。そして3つ目は、運送会社の行動規範となる無事故(No accident)経営の実践。交通事故及び運送中の商品事故ゼロを目標に業務に従事しています」
こうして一念発起して経営改革に突き進んできた田島社長。その甲斐あって、地元の特産品である高原野菜や米、乳製品の輸送量が増大。1996年には、現所在地に新社屋を建設。車両は一気に25台まで増車したという。その後も、家畜輸送(生牛)や飼料の配送、冷凍食品、製紙、住宅設備、一般雑貨などの貸切輸送を獲得。さらに、関東からの帰り荷として、飲料水、家電、飼料の原料なども運ぶなど、安定した経営基盤を築き上げることに成功した。田島社長は、地域発展の一翼を担う会社であり続ける、という先代社長の想いをしっかり引き継ぎつつ、地域を代表する輸送企業へと同社を発展させてきた。
- 会社名
- 有限会社中山運送
- 所在地
- 岩手県二戸郡一戸町中山字軽井沢116番地1
- 設立年月日
- 1963年(創業)
- 代表者
- 代表取締役社長 田島 祐一
- 従業員数
- 35名
- 保有車両台数
- 40台
安全運行を基本に従業員の結束力を高める
事業が拡大できた理由として、事務員を含め従業員が優秀だから、と誇らしげに語られた田島社長。具体的に、どのように人材育成に取り組まれてきたのか、お話を伺った。
「従業員が互いの想いに共感できる組織をつくるため、コミュニケーションを大切にしてきました。安全が従業員にとっても、お客様にとっても、地域にとっても幸せ(利益)につながるということと、そして、自分たちの価値を高めるために、会社でなすべきこと、守るべきルールがあることを従業員一人ひとりに伝えてきました。それはやがて、事務員の丁寧な電話応対やドライバーの現場での堅実な行動につながり、お客様に高く評価されるようになりました。こうして当社は、少しずつ、しかし着実に仕事を増やしてきたのです」
同社のドライバーの定着率は高い。それは、同じ会社の仲間であるという帰属意識が強い証でもある。田島社長は、組織の一員として成長したい、というドライバーの主体的な行動を促すことで、会社全体の結束力を高めてきた。
豪雪地域ならではの安全教育に取り組む
同社では「輸送の安全はわが社の根幹」、「安全運行はプロドライバーの社会的使命」を安全方針として定め、精力的にドライバーの安全教育に取り組んでいる。特に岩手県は豪雪地帯のため、冬季の安全教育が欠かせないのだという。
「当社のドライバーは、高原地域を運行するので、まずタイヤチェーンの取り付け方と、雪道でスタックしたときの脱出方法、圧雪及びアイスバーンの坂道における安全運転を覚えてもらいます。また、年2回、安全運転講習会を開催しており、自動車学校に依頼して実地運転を行ったり、外部講師を招いて専門的な知識を学んでもらったり、徹底的に事故防止に努めています」
と語られた専務取締役の田島大氏。もちろん、同社は早くにGマークも取得済みである。さらに、同社では、アルコールチェック義務化以前より、アルコールチェッカーを導入。スマートフォンを利用した顔写真送信機能を備えており、遠隔地での点呼にも活用している。車両には、デジタコやドライブレコーダー、バックモニターを装備することで、ドライバーの安全運転、事故防止をサポート。これらから得られた事故ヒヤリハット情報は、研修会などで教材として活用し、ドライバーで共有化されている。
質の高い輸送を実現する最適車両をラインナップ
ところで、農産物から飼料、家畜、食品、家電、一般雑貨など、幅広い貨物を運ぶ同社には、実に様々な車両が取り揃えられている。例えば、飼料用のバルク車は、フルトレーラを保有。関東まで生牛を運ぶ家畜専用のウイング車(12頭積み)は、帰り荷も運べる特別仕様である。ちなみに、繊細な生牛を荷積み、荷下ろしまで行うため、ドライバーは熟練者が担当しているとのこと。現在は常時5台が稼動している。
主要車両は冷蔵冷凍ウイング車だ。これも同社の特別仕様で、高原野菜の新鮮さを保ちながら輸送できるように、いすゞのGカーゴをベースに改造。3コンプレッサ仕様の冷凍機を搭載し、荷室の全面に保冷効果の高い断熱材を採用しているそうだ。汎用性も非常に高く、乳製品や食品のほか、肥料、製紙、一般貨物なども、この車両で運んでいるという。田島社長に、いすゞ車について感想を伺った。
「いすゞ車は、とても積載性に優れている点を評価しています。また、耐久性や省燃費性能も良く、ランニングコスト削減にも貢献してくれています。加えて、突発的な故障時も、いすゞ自動車東北が迅速に対応してくださるので、大変助かっています」なお同社は、自社整備工場を有しており、運行後のメンテナンスを徹底することで、運行中の車両不具合を大幅に削減している。
経営の健全化を推進 従業員満足度向上に努める
多様化する顧客ニーズに、安全運行と最適な車両で応えてきた同社。最後に今後の展望について田島社長にお話を伺った。
「昨年から続く燃料費の高騰、アフターコロナの経済動向が懸念されるところですが、これからもコスト削減によって経営の健全化を推進し、また、原則として依頼された仕事を断らず、長年にわたって蓄積されたノウハウを最大限に活かして、質の高い輸送サービスを提供していきたいと考えています。車両数が増えたことで、ほぼ社内で車両の手配がつくようになりましたので、さらに、お客様を獲得できるように営業活動にも積極的に取り組んでまいります。課題として挙げられるのは、人材を確保していくことですが、運行体制の改善、福利厚生の充実を図るなど、求職者にアピールしていきたいと思います」
昨年4月に働きやすい職場認証制度を取得したという同社。今後も従業員満足度の向上に努めながら、地域に根ざした従業員のための組織づくりを進めていく方針である。
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