機械系技術者から実運送業の経営者へ
熊本県中北部に位置する大津町は、九州の中部を東西に横断する国道57号を擁すると共に、熊本空港や九州縦貫自動車道熊本ICに、ほど近い交通条件に恵まれた田園産業都市である。この地に本拠を構える株式会社ユニットロード田島は、代表取締役社長を務める脇田昭彦氏が2008年に設立した輸送企業である。設立から十余年、同社は自動車用部品の幹線輸送を中心に事業を展開。新たな営業所(3拠点)を設け、グループ企業2社も傘下に収めるなど、強固な事業基盤を築き上げている。
ところで、今年で80歳、傘寿(さんじゅ)を迎えるという脇田社長は、理工学部の出身で、若い頃はジェットエンジンの研究員に選抜され、その開発に携わったという異例の経歴を持つ人物である。その後、自動車のエンジニアなどを経て、大手運送会社に入社。福岡の事業所に赴任した際は、拠点開発を担当し、熊本県、宮崎県、大分県などで拠点づくりに奔走する。その実績が高く評価され、経営幹部を務める。退職後は、自ら運送会社を起業。しかし、事業そのものは大いに成功したものの、取引先の債務トラブルに巻き込まれ廃業を余儀なくされる。このとき、脇田社長は60代後半にさしかかっており、余生は、これまでの経験とノウハウを活かして、経営コンサルタント業に専念しようと考えていたそうだ。ところが、とある運送会社の案件で、依頼主である経営者が急逝。脇田社長の人生の歯車が再び大きく回り出すことに。
「それは、経営再建策の一環として、人脈をたどり、ようやく自動車部品を運ぶ仕事を決めたときの出来事でした。正直なところ、この期に及んで、運送業を営む気は微塵もありませんでしたが、ここで投げ出すわけにいかず、自ら仕事を引き受けることにしたのです。車両を取り揃えるなど、事業開始時は大変でしたが、おかげさまで仕事は順調で、売上も年々増加。車両も増えたので、6年前に現所在地に本社を移転しました」
と語る脇田社長は、後5年で引退すると言い続けながら事業を継続してきた、と豪快に笑う。
現在同社は、九州圏内の自動車部品工場から集荷した様々な形状の部品を名古屋の製造工場まで、ジャストインタイムで運ぶ。ほぼ定期便として運行しているが、突発的な輸送依頼にも迅速に対応できるように、つねに予備車両を保有(通常はスポット便として稼動)。また、併せて輸送用ケースの回収、返却といったサービスも提供しているという。近年は、食品や飲料水、雑貨などの幹線輸送(工場-物流拠点間)も請け負うなど、業務の裾野を広げている。
- 会社名
- 株式会社ユニットロード田島
- 所在地
- 熊本県菊池郡大津町大字杉水1205-3
- 設立年月日
- 2008年10月1日
- 代表者
- 代表取締役社長 脇田 昭彦
- 従業員数
- 70名(グループ130名)
- 保有車両台数
- 56台(グループ110台)
事業の基本原則は依頼を断らないこと
以前まで名古屋で自動車メーカーに勤務。その後、地元の運送会社で管理職を務めていたという坂本純男氏が、同社のドライバーに採用されたのは5年前のこと。入社後、大型免許を取得し、約1年間、福岡で食品や雑貨の配送業務に従事する。その後、グループ会社に異動となり、運行管理者として勤務。現在は、同社の常務取締役に抜擢され、実質的な同社の事業運営を任されている。坂本常務に、同社の事業体制についてお話を伺うことができた。
「自動車の部品輸送は、生産計画・工程に基づき集荷及び納品時間が厳格に定められていますので、高度な運行管理と柔軟な対応力が求められます。そこで当社では、安全確実な輸送体制を確立するため、本社にグルーブ3社の運行管理を統括する部門を設置。車両を円滑に融通できるようにしました。また、1週間ごとにグルーブ3社で業務の進捗状況を共有することで、相互の協力体制を強化。お客様からの突発的な依頼にも迅速に対応しています」
グループで業務を補完し合うことで、顧客との信頼関係を高めてきた同社では“決して顧客の依頼を断らない”というのが事業の基本原則。ドライバーが出払っているときは、運行管理者が乗務することもあるそうだ。
顧客との信頼関係が良き経営体質をつくる
ふとした縁で、人生の晩年に実運送を手がけることになった脇田社長だが、事業はすこぶる順調で、グループで保有車両100台を超える事業規模にまで同社を成長させた。ドライバー不足や長時間労働及び賃金の是正、コスト上昇など、多くの難しい課題を抱える運送業界において、どのような方針で同社をけん引されてきたのか、脇田社長にお話を伺った。
「経営理念の“一灯照隅万灯遍照(いっとうしょうぐう・まんとうへんしょう)”とは、一つの灯火を掲げて一隅を照らすことで、共鳴する人が現れ、一灯が二灯となり三灯となり、いつしか万灯となって、全体を照らせるようになる、という意味。つまり、我々の仕事も、自分たちができることを誠心誠意行っていけば、お客様の発展に貢献することになり、それが、ひいては社会の成長につながるということです。当社は、まず、良い組織づくりに取り組み、そして、お客様と信頼関係をしっかり築けるように努めてきました。お客様との関係が強固になれば、大抵の問題は、現場で解決できるようになります。そのために、お客様の要望に真摯に耳を傾け、満足いただける輸送サービスを提供することに尽力しています」
一方で、経営コンサルタントとして、運送会社の経営を再建されてきた脇田社長。経営難に陥る企業には、運送事業者ならではの、ある共通点があると話す。
「経営が悪化した運送会社の多くは、大抵無理をしています。仕事を失いたくないがために、赤字で仕事を引き受けてしまうケースです。顧客に言われるがまま、ズルズルと運賃を値下げし、やがて資金繰りが逼迫。慢性的な赤字経営を続けるうちに自転車操業となり、首が回らなくなってしまうのです。ですが、経営を建て直すことは可能です。しかも、容易で実にシンプルな手法で…。まず、債務を整理し、できれば金融機関1社に一本化します。次に、堅実かつ綿密な事業計画書を金融機関に提出して、1年間の支払猶予をもらいます。そして、明確なコストの内訳を顧客に提示して、運賃を値上げしてもらいます。交渉が決別したら撤退。同時に顧客開拓の営業活動も行います。こうして赤字体質から脱却するのです。これは、当社の基本的な経営手法でもあります。私は、絶対に無理な仕事は引き受けません。利益が出せない仕事は、自分の首を絞めるだけですからね」
しかし、実際には“顧客は、そう易々と運賃交渉に応じてくれない”という壁が立ちはだかる。ここで、先述した同社の“決して顧客の依頼を断らない”という基本原則が生きてくる。つまり、顧客が無理を言うときは困っているとき。それは、運送会社として存在価値を示すことができるチャンスであり、信頼関係を高めることにもつながる。日頃から良好な関係を築いておけば、ビジネスパートナーの要求を無下に断ることはできない、ということである。実際に同社では、燃料サーチャージ制を導入しており、定期的に顧客と運賃交渉を行っている。
発展途上の会社をさらに成長させるために
はた目には、ここまで順風満帆ともとれる同社だが、脇田社長は、経営課題が山積しており、会社は発展途上にあると話す。
「すでに、私一人では事業全体を把握できない事業規模なので、中長期的には人材育成に注力していく所存です。また、ドライバー不足の拠点対策としては、本社(熊本)で採用して、各拠点で勤務できるように社員寮などの確保も検討しているところです。コロナ禍の影響としては、グループ会社及び事業所間のコミュニケーション不足が懸念されます。業務に支障が出て、事故が増えたり、生産性が低下したりすることがないよう対策を講じていく考えです。今年は、新たな大型案件の受注も見込まれていることから、新しい事業拠点の開設も予定しています」
と最後に今後の課題や事業計画について語られた脇田社長。まだまだ、やるべきことが多く、社長業を勇退するのは、もうしばらく後になる様子。バイタリティ溢れる脇田社長に、今日も多くの人たちが元気をもらっている。
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