行方で3代続く老舗の看板を守る
茨城県東南部に位置する行方市に本拠を構える行方運送株式会社。代表取締役を務める熊谷茂穂氏の祖父が1956年に創業された運送会社である。熊谷社長が入社した当時は、社員50名ほどの規模で、主に鋼材輸送を手がけていたそうだ。熊谷社長は2010年に3代目社長に就任。以来、同社で陣頭指揮を執り、事業基盤の安定化、業務の効率化に取り組んできた。現在は、生乳をはじめ、冷凍食品(主に総菜)、米穀類、飼料、鋼材・建築資材、コンテナなどを取り扱う。事業拠点は、本社営業所(生乳、建築資材、コンテナ等)の他に、小美玉市(生乳等)、鹿嶋市(飼料等)、つくばみらい市(冷凍食品等)、千葉市(生乳等)を開設し、輸送サービスを提供している。
専門性、稼動率が高い仕事にシフト
「お客様と同僚を大切にし、会社も社員も成長しよう。お客様を感動させる企業になろう」という同社の社是は、熊谷社長のお母様が策定したものだそうだ。そのための行動規範として6S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ・作法)を用いて人材育成に努めてきたという。熊谷社長は、この社是に基づいて、会社の持続的な発展を念頭に、無理せず急がず事業を展開していく経営方針を打ち立てる。
「今まで事業規模を拡大したいと考えたことはありません。勝てなくても、負けなければ良し、としてきました。つまり、採算が合わない仕事や運賃で他社と競うような仕事からは撤退。昔から続いている仕事は、高い専門性と安全性が求められる鋼材輸送だけになりますね。その他の仕事は、専門性・専用性が高い、あるいは稼動率が高い仕事ばかりです。こうした仕事をお引き受けできるように、運送事業の最大の経営資源である人材を育成し、最適な車両を導入してきました。さらに、業務の効率化に向けた仕組みづくり(車両と人材の汎用性を高める)に努める中で、利益が上げられるようになりました」
と語られた熊谷社長。実際に同社は、この10年で順調に業績を伸ばし続けながら、毎年、策定する戦略目標(お客様満足度向上、人材育成、高度化)、数値目標(営業利益、自己資本比率)の達成に心を砕いている。
“選択と集中”によって経営効率を高め業績アップ
生乳の集荷・全国輸送及び飼料配送は、季節波動はあるものの稼動率は高く、競合他社も少ないため、同社の主力業務である。冷凍食品は、工場から物流拠点への輸送業務。複数の製品を混載輸送することで利益を確保している。一方で、利益率は高いが稼動日が少ない鋼材・建設資材は、帰り荷とセットで運行する。コンテナは、全体の仕事量に応じてトラクタヘッドを効率良くローテーションさせ、車両の稼動率を高めている。ちなみに同社のドライバーは、生乳を運ぶ日もあれば、コンテナを運ぶ日もある。最低でも2品目以上の輸送スキルを身につけている。つまり、仕事のボリュームに応じて多様化されたドライバーと車両を的確にマッチングし、運行の効率化と共に、稼動機会損失を回避している。しかし、こうした運行体制を実践することは、簡単にできることではない。熊谷社長に、さらに詳しく経営戦略についてお話を伺った。
「当社の営業戦略は、あらかじめやること、やらないことを明確にしています。競合の少ない専門性の高い市場でのシェア拡大をめざしながら、なるべく輸送品目を絞り、人材と車両の汎用性を高めております。利益率の高い業務を見極め、その業務に経営資源(人材・車両)を集中的に投下。“選択と集中”によって、経営効率を高め、業績を伸ばしてきました。また、業務に精通した元ドライバーが管理職を務めているのも大きな強みで、判断が的確で対応も迅速です。お客様と信頼関係もあるので、交渉や提案もスムースに運ぶことが多いですね。さらに当社には、3名の女性管理職(課長以上)も在籍しています。細やかな気配りができる女性は、会社の質を向上させます。これからも女性の活用は欠かせないと考えています」
同社では、オフィス業務の効率化とスピード化も進めているそうだ。各社員の机上には、事務作業を効率的に処理できるように、モニターを2台ずつ配置している。さらに、昨年からコロナ禍対策も兼ねて、各営業所との打ち合わせや連絡・報告用にオンライン会議システムも導入したという。また社会保険労務士や会計士、弁護士、コンサルなどの外部ブレーンも積極的に活用。定期的に社内監査を実施している。運送会社もコーポレートガバナンスが問われる時代。健全で公正な企業経営を遂行するため、組織のリスクマネジメントの妥当性・有効性を客観的に評価しているという。
充実した安全教育・研修体制 表彰制度で安全意識を向上
人材育成を経営の重要課題と位置づけている同社では、安全教育・研修も充実している。新人ドライバーについては、性格診断・適性診断を実施し、その結果に基づく指導と交通ルール遵守を最優先とした安全教育(講習15時間以上/実技20時間以上)を行っている。また「安全教育12項目」を用いた安全定例会議や、デジタコやドラレコのデータを活用した個人面談に加え、定期的なドライバーミーティング及び小集団活動によって、ドライバーの自立性・協調性を養っているそうだ。事故惹起者に対しては、発生原因を検証すると同時に、事故過失内容により更生プログラムを実施。事故の再発防止に努めている。またインセンティブとして、安全・省燃費運転・車両美化・身だしなみを評価対象とした表彰制度も設けており、毎月10名を表彰。さらに、その中で特に優秀なドライバーを年2回(1月・7月)に分けて表彰。これは表彰式を執り行って金一封、または旅行券などを授与して、安全意識やロイヤリティの向上に寄与している。
社員を大切にする社風を守り続けていく
選択と集中のメリットの一つは、無駄を省くことができることだが、損を切り捨てて利益に集中することは、理屈は理解できても、現実的には実行が難しい。なぜなら、一口に不採算業務から撤退するといっても、長年多くの経営資源を注ぎ込んできたわけで、将来的には利益をもたらす可能性もあるからだ。しかも、撤退に伴って人員削減を余儀なくされることもある。熊谷社長は、この10年間、非常に勇気のいる決断を下してきたと言えるだろう。
「人材は経営戦略の要ですから、今後も当社の最大のストロングポイントとして育成に力を入れていく所存です。当社は、地域一番の福利厚生をめざしており、毎年、研修旅行(年3回に分けて実施)や女性だけの食事会、保養施設の利用促進、バーベキューなどのレクリエーション、永年勤続表彰などを開催しています。社員を大切にする、という先代からの社風は、これからも守っていきます。事業計画としては、この4月に顧客の要請に応えて千葉営業所を開設しました。また年度内には、協業関係を強化することを目的に大手の物流企業と資本提携することが決まっています。人事交流をとおして、情報を共有化すると共に商流知識を得て、物流業務全般を視野に入れた提案力を習得し、付加価値の高い輸送サービスが提供できるように努めてまいります」
と最後に今後の事業計画について語られた熊谷社長。これからも同社は、創業100周年をめざして、社員の意識改革を促す中で組織の最適化、精鋭化を図っていくという。
つねに最適車を導入
車両は安全性能を重視。ギガは、プリクラッシュブレーキや全車速ミリ波車間クルーズなど、安全装置が充実しているので長距離運行も安心です。また、車両コンディション自己診断機能により、リアルタイムに車両のコンディション情報(DPD不調監視、エンジン故障検知等)が把握できるところも高く評価。ドライバーからはスタイリングのほか、運転席の高機能シートの乗り心地が好評です。
茨城いすゞとの信頼関係により、当社はいすゞ車を多く保有しています。保有車両は5車種(大型ウイング車、トラクタヘッド、冷凍車、バルク車、ミルクローリ車)。車種別に仕様を統一することで汎用性を高め、車両の稼動率も高めています。車両は3年先の稼動状況を見据えて、年間10台ほどを代替しています。
予防整備を自社の整備工場(別会社)で実施。軽微な故障のうちに修理・部品交換することで、修繕費の削減、車両の稼動率の向上に努めています。燃料の一部は、価格変動リスクを回避するため、先物取引で仕入れることでコストを平準化。燃料費の高騰などによって、収益を落とさないようにしています。
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