温度帯食品に特化した配送サービスで事業を拡大
幼い頃から実業家である父の背中を見て育った井上竜毅氏は、将来、自分も社長になろう、と心に決めていたという。その夢は、若干23歳のときに突如として叶えられた。知人の後押しを受けたこともあり、2007年に運送事業を生業とする株式会社リュウセイを設立したのだ。しかし、起業はしたものの肝心の仕事がない。そこで井上社長は、以前から仕事で縁のあった福岡の魚市場に出入りし、配送の手配から荷揚げ、配送実務、翌日の準備まで無償で手伝いを始める。約半年間、セリが始まる午前3時前に出勤し、午後10時まで働いたそうだ。こうして魚市場に受け入れられた井上社長は、鮮魚の配送業務を任されるようになる。また、配送のみならず、顧客の要望に可能な限り応えられる物流体制を整える。5年後には保有車両台数50台を超え、独自に配送センターも開設。3温度帯の輸配送に加え、保管及び流通加工サービスを提供できるまでに事業を拡大させた。
- 会社名
- 株式会社リュウセイ
- 所在地
- 福岡市中央区赤坂3-11-26(本社)
- 設立年月日
- 2007年2月5日
- 代表者
- 代表取締役 井上 竜毅
- 従業員数
- 300名(グループ含む)
- 保有車両台数
- 200台(グループ含む)
地場配送から全国幹線輸送へ
ここで同社にとって、最初のターニングポイントが訪れる。事業拡大に伴って他社との価格競争やコスト増大、多忙による人材の流出といった経営課題が浮上。井上社長は、事業を抜本的に見直し、生鮮品や日配品、冷凍食品を混載する配送体制を構築していく。現在、同社は、複数の配送拠点を設け、効率的な食品配送を実現。1年をとおして約160カ所以上の小売店や販売店に食品を届けているという。
次のターニングポイントは数年前のことだという。現状に甘んじることなく、つねに走り続けてきた井上社長は、周囲の意見に耳を傾け、新たな事業を実行する。それが、全国(主に関西、中部エリア)への長距離幹線輸送だ。地場の集配業務は市場が限られており、これ以上の収益を見込むのは難しい。このままではパイの奪い合いになると考え、福岡ブランドの鮮魚や農産品をはじめ、チルド食品や飲料品などの幹線輸送を始めたという。帰り荷は、自社の流通センターで保管、仕分け、再梱包し、顧客の要望に応じて九州各地の店舗や倉庫へ配送。この幹線輸送業務は、きめ細かな対応力が顧客から評価され、売上の約50%を占めるほど受注が増大。現在は、同社の主要事業の一つとしてとして位置づけられている。
“お客様第一”だから社員が活躍できる職場を
創業から13年、この驚異的な成長を支えてきたものは何なのか。井上社長に、同社の経営方針について、お話を伺うことができた。
「つねに“お客様第一”に考え、満足いただけるサービスを提供できるよう事業に邁進してきました。お客様のご要望にそった対応、あるいは困りごとを解決に導く仕組みをご提案。当社は、それを迅速に実行できる有能な人材を確保しており、物流に関わることなら何でもできる、と自負しております。したがって、早くから人材育成に注力し、多様な人材が活躍できる職場づくりを進めてきました」
井上社長の言葉どおり、同社には輸送や倉庫作業部門のほかに、車両整備、運行管理、営業、広報、人事、教育、システム開発などの部門があり、社員が志望するキャリアプランにそって働ける環境が整えられている。ドライバーの免許取得支援をはじめ、定期的に研修会や講習会なども実施するなど、積極的に人材育成に取り組んできた。もちろん、途中でキャリアプランを見直すことも可能で、入社後、継続的に働き続けられる組織を築き上げてきたのだという。さらに、優秀な社員は、積極的に重要なポストに登用。社員一人ひとりが、仕事にやりがいを持てるよう努めてきたそうだ。
しかし昨今は、ドライバー含む人材を募集しても集まらない、という声をよく耳にする。ところが、同社では、毎月100名を超える応募があるというから驚きだ。人材を集める秘訣は、充実した専用の「採用サイト」にあるという。井上社長は、単に応募資格や雇用条件を掲載するだけでは不十分だと話す。
「掲載する採用情報は、実際に当社で働いている状況や職場の様子が具体的にイメージできることが重要です。明確な情報を発信することで、意欲の高い応募者を集めることができます。自ずと採用のミスマッチが少なくなるので、社員の定着率も高められます。また当社は、入社後の人材育成が前提なので、業界未経験者も大歓迎。女性のドライバーや倉庫作業員も、積極的に雇用しています」
同社には、採用サイトの情報更新、リニューアル、アクセス数の分析などを行う専門の社員が在籍。さらに、採用活動で蓄積したノウハウを活かし、求人から採用に至る一切の業務を代行する求人サービス事業も立ち上げている。
社員が長く働けるように“だったらいいな”を具現化
同社の定着率の高さには、もう一つ理由がある。それは充実した福利厚生である。井上社長は、どうすれば社員に喜ばれるか、いつも考えているそうだ。
「社員には仕事で無理をさせたくありません。だから働きやすい職場をつくる。職場が快適になれば離職者が減ります。すると、生産性も向上するので収益も上がります。自身のドライバー経験から“だったらいいな”を具現化しています。社員が長く働き続けられる魅力的な会社をつくりたいのです」
と語られた井上社長。同社では、社会保険完備、賞与支給、交通費支給、社員寮完備は当然のことながら、職種転換や勤務形態(週休2日も可能)の要望にも対応しており、極力、長時間労働や残業もさせないように勤怠管理を行っている。また、休憩室やシャワールームの設置、健康診断や人間ドッグの実施、専属産業医による健康ケア(週1回)、専属のマッサージ師による施術(週1回)など、社員の健康面にも気を配っている。さらに、弁当店(別会社)を開業し、社員の昼食用に1日200食のお弁当を製造(早朝勤務者には朝食も)。味にも栄養バランスにもこだわるという力の入れようだ。もちろん、これらの福利厚生費は、すべて会社で負担しているという。
コンプライアンスを重視総合物流企業をめざしていく
コンプライアンスは、企業の社会的な責務と話す井上社長。つねに安全を最優先に事業を推進してきたそうだ。同社は、安全管理委員会を設置しており、各部署と連携して、安全運転指導と事故防止活動を実施している。また、自社の整備部門で全車両を点検、整備。加えて車両には、10年前からクラウド型のデジタコ(現在はドラレコ・GPS機能付き)を導入し、きめ細かな運行管理を行ってきた。ちなみに同社では、事故発生時の車両修理などは、すべて会社の車両保険で対応。安心して業務に専念してもらえるように、ドライバーに費用を負担させることは一切しないという。また、無事故のドライバーには、毎月5㎏の新米を支給するというユニークな制度もある。
同社の取り組みを見ると、人件費は決してコストではなく、成長に必要な投資であることがよくわかる。他社と価格競争で勝負せず、有能な社員の能力を結集して付加価値の高いサービスを提供することで、著しく成長を遂げてきたのだ。井上社長は、最後に直近の目標を次のように語られた。
「理想の未来は道半ばです。数年以内には車両規模で300台以上、事業拠点は宮崎、鹿児島、岡山、愛知での開設を予定しています。将来的には、総合物流企業として、お客様の多様なニーズに即応し、信頼される良きビジネスパートナーをめざしてまいります」
最近では、大手食品メーカーに自社で開発した物流システムを提案し、物流業務も受注したという同社。井上社長の快進撃は、まだしばらく続きそうである。
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