トラック大図鑑

教えて!「ハンドル」のこと

ここは、神奈川県湘南台の喫茶店「いすゞCafe」。しぶいマスターが一人で切り盛りしている。
若いころはトラックドライバーとして活躍したらしく、
店にはそのころの写真や思い出の品が飾られている。
今日も地元の若いカップルが、おいしい珈琲に惹かれてやってきたようで・・・。

きょうこ

マスター、駐車場に大きなトラックとまってるわね

あきら

すごい力持ちのドライバーが運転してるのかな。あれ?普通のおじいさんだ

マスター

こら、無礼者。その方をどなたと心得る!

ご老公

こふぉーっ、ほっほっほっ

マスター

昔ドライバー仲間だった水戸の光さんだ。老けて見えるから『水戸のご老公』と呼ばれてたんだよ。ほんとに今じゃ老けちゃったけど

ご老公

ほっほっほっ。失礼な。わしは今でも現役のドライバーじゃよ

きょうこ

ははーっ。失礼いたしました。しかし、そんなに身体も大きくないのに、あんな大きなトラックをよく運転できますね

ご老公

ほっほっほっ。大丈夫、大丈夫。お嬢ちゃんでも運転できるよ

きょうこ

あたしなんか、絶対無理ですぅ。力もないし、きっとハンドルなんか回せないですぅ

あきら

ちょっとぶりっ子してますけど、確かによく食べるけど力はないんです

きょうこ

うるさいー

マスター

ふんふん(ニコニコ)。ご老公、何かトラックのハンドルのことを勘違いしてるようですな

ご老公

そうじゃな・・・って年寄り扱いしないでよ。若いお二人さん、トラックのハンドルって、すごく進化しているんじゃよ

きょうこ
あきら

へえー

トラックハンドルついて

ハンドル

「ハンドル」ですが、正式名称はステアリングホイールといいます。ここではハンドルで述べていきます。
確かにきょうこちゃんやあきらくんが思うとおり、トラックのハンドルは、だいたい乗用車のものより一回り大きくなっています。
しかし、最近ではパワーステアリング、いわゆる「パワステ」が主流ですから、運転手さんは軽く握って、軽く動かせます。きょうこちゃんが心配するように、普段の運転には大きな力はまず必要ありません。

パワステは昭和50年代からまず乗用車に取り入れられ、その後トラックに普及しました。ハンドルを回すときには力が必要ですね。その力のかかり具合に応じてアシストしてくれる仕組みなので、女性の腕力でも問題なく回せるのです。

また現在、小型トラックについては「ラック&ピニオン式」とよばれるステアリングギヤ方式を採用しています。
ハンドル操作が、ハンドルの軸の先端についている「ピニオン」から、タイヤの方向を決める「ラック」に伝えられるこの方式は、ハンドルとタイヤの間にある部品が従来より減らせるため、ハンドル操作がタイヤに伝わりやすく、より運転手さんの思った通りに、トラックが曲がれるようになっているのです。
また同時に、「剛性が高い(つまり「強い」)」という優れた特性も持っています。

トラックのハンドルが乗用車と違うところといえば「切れ角」といって、ハンドルを回して車体の方向を変える角度です。

  • 乗用車 だいたい30度~35度
  • トラック だいたい45度以上

これは、たとえばゴミの収集車などを思い浮かべてください。
小型乗用車が入っていくような細い道に、トラックで入って行かなくてはならないことも多いでしょう。そんな時、トラックにはより小回りの良さが要求されるのですね。
つまり「ハンドルがスムーズに切れること」。それによって、車体をムダなく回転させる動きが可能になるのです。

あきら

なるほど。トラックのハンドルって、考えていたのとぜんぜん違ってたね

きょうこ

でもね、確かに力がそんなに必要ないのはわかったけど、あたしなんか体が小さいし、やっぱり運転しにくいんじゃないかしら

ご老公

ほっほっほっ。お嬢ちゃんは細いし、華奢(きゃしゃ)じゃが心配ないわい。ちゃんとハンドルの角度を変えたり、上下させたりできるようになっているんじゃよ

マスター

『チルト&テレスコピックステアリング』といって、ほとんどのトラックがドライバーの身体に合わせて運転しやすいように調節できるんだね

チルト&テレスコピックステアリング
きょうこ

じゃ細くて華奢なあたしでも大丈夫ね!

あきら

・・・(自分で言うかなあ)

ハンドル求められること

トラックのどの部分も安全にとって大切な機能を担っているのですが、走る方向を決めるハンドルは、とくに大切なものといっていいでしょう。
ハンドルが壊れたりしたら即命にかかわる事故に直結します。したがって、その耐久性、「強度」「寿命」にはたいへんな注意がはらわれています。

衝突前と衝突後の曲がり方の図

しかし、万が一の事故にあったとき、たとえば追突事故の時には、ドライバーの体、とくにお腹の付近をハンドルが圧迫して危険なので、ぐにゃっと曲がるような素材を使っています。耐久性に優れていながら、万が一の時には身体を圧迫しないそんなスグレモノなのです。

そしてハンドルに求められる大きな機能がもうひとつ。それは「直進安定性」
大きなトラックで道を走ります。道にはヘコミもあるし、風も吹きます。
運転手は、無意識に細かくハンドルを切って調整しながら走っているので、そこに違和感があると大変なストレスになります。とくに長距離を走ることの多いトラックではなおさら、安定してまっすぐ走ること。思ったとおりにハンドルを切って、思ったとおりに曲がる。そんな操作性が何より大事なのですね。

きょうこ

へえー。道って、ほおっておいても真っ直ぐ走れるもんだとばっかり思ってた

ご老公

おまけにのう、トラックは荷物なしで走るときと、荷物を満載して走るときでは、車体の重さが倍ぐらい違うんじゃ

あきら

そんなに違うんだ

きょうこ

それでも安定して真っ直ぐに走行できるような操作性がハンドルには求められるわけね

あきら

ハンドルの役目ってたいへんなんだね

ご老公

ふぉーっほっほっほっ。わかれば良いのじゃ。さて、わしは水戸に帰るとするかの

マスター

あ、ご老公。コーヒーのお代を・・・

ご老公

苦しゅうない!そこの助さんと格さんが払うわい

きょうこ
あきら

はれー

ご老公

ふぉーっほっほっほっ(出て行く)

こうして湘南台の喫茶店『いすゞCafe』では、マスターとカップルが今日もお茶を飲んでいるのである。

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