バス大図鑑

教えて!「バスの客席」のこと

大森の商店街の小さなレストラン「キッチンいすゞ」。
マスターは路線バスの運転手でしたが引退して、実家の洋食店を継ぎ、
カウンター越しに、お客さんとの会話を楽しみながら、おいしいランチを提供しています。
常連のお客さんにバスの話が大好きな親子がいて、今日もやってきたようです。

お父さん

マスター、スタミナ定食ふたつ!

マスター

わかりました

お父さん

ムスコは先週長距離バスに乗って、たった一人で関西旅行してきたんだよ

ムスコくん

超楽しかった!

マスター

ムスコくんは、ほんとにバスが好きですなあ。ずっとバスに乗っていてお尻が痛くならなかったですか?

ムスコくん

ぜんぜん平気だったよ!

お父さん

もしかして……、昔よりバスの座席が良くなってるなんてことはないの?

マスター

おっいいところに目をつけましたね。今日はバスの座席の話をさせてください

観光バス路線バス座席違い

まずはバスの種類ごとに、「座席の配列」を見てみましょう。

路線バス(自家用バスを含む)の座席の配列

現在は「前向きシート」が主流で、その配列には「都市型」「ラッシュ型」「郊外型」に分類されます。

1都市型

首都圏など大都市部では、バスはたくさんの乗客を運ばなくてはなりません。乗車定員が多くなるような座席配列になっています。どの座席配列でも、車いすの乗客のため「跳ね上げシート」を装備しています。

2ラッシュ型

都市部の通勤時間帯など、さらにバスがたくさんの乗客を運べるように、バス後部の座席の間隔を広くしています。こうすることによって、後部に乗っている乗客を少しでも降りやすくするためです。

3郊外型

比較的、多くの乗客が乗ることがない郊外のバス路線では、できるだけ乗客が座れるように座席が配列されています。車いす乗客のスペースで、Ⅰ型、Ⅱ型と分類しています。

路線バスの座席配置

観光バス・長距離バスの座席の配列

観光バス・長距離バスでは、前向きシートの4列シートが基本です。他には、夜間高速で用いられる独立3列シートがあります。

夜間高速バス(独立3列シート)
観光バス(4列シート)の座席配置

次に「座席の形状」です。やはりバスの種類ごとにどんなものがあるか見てみましょう。

路線バス(自家用バスを含む)の座席の形状

  • 固定シート(リクライニングなどの調節はできない)
  • ローバックシート(背もたれの低いタイプ)
  • 自家用バスには補助席がある場合があり

観光バス・長距離バスの座席の形状

  • リクライニングシート(少し後ろに倒せて長時間移動を快適に)
  • ハイバックシート(背もたれの高いタイプで、上部に頭を預けるヘッドレストがある)
  • 補助席/ガイド席(補助席、ガイド席はローバックで固定シート)

路線バスでは乗り降りの頻度が高いことを考えて、ハイバックではない固定シートが使われます。逆に観光バスなどでは、長時間座りっぱなしの乗客がより快適に過ごせるよう、ハイバックのリクライニングシートが採用されています。特別なタイプではレッグレストという足の置き場を備えたものもあります。

固定シートの例
リクライニングシートの例

補助席は座席を多く確保するためのもので、ガイド席は、ガイドさんが運転手及び乗客とお話することを想定しています。また、観光バスではいろいろなシートのバリエーションがあり、バス会社の要望によって選べるようになっています。

補助席(片跳ね式)
補助席(全格納式)
ガイド席
観光バス・長距離バスのシートの種類例
お父さん

なんと、ムスコはこんなにいい座席で旅行してきたのか!

ムスコくん

へへへ

マスター

ははは。バスメーカーの人に聞いたんですが、路線バスに比べて、観光バスや長距離バスの座席は予算がたっぷりかかっているとのことですなあ。使う部品の数やその素材がぜんぜん違うそうです

ムスコくん

座り心地バッチリだったよ

マスター

でも、路線バスのほうも、別の意味で座席にはすごく投資しているそうですよ

お父さん

1日にたくさんの乗客が乗り降りするから?

マスター

そうです。乗客が座るところはとくに強度を高めているそうです。あと座席の横に飛び出ているのがシートグリップというのですが……

お父さん

手でつかむところだね

マスター

はい。その強度にも気を配って、バスメーカーのほうで耐久試験を行っているそうですなあ

ムスコくん

バスの座席っていろいろ考えられているんだなあ

路線バス座席工夫

マスターの会話に出てきた「シートグリップ」。新幹線などのシートにもついていますが、これはいすゞのガーラが世界で初めて装備したものです。

シートグリップ
シートグリップ

握る形状を工夫し、つかみやすい、そして通路への飛び出しが少ないことで邪魔にならないよう、そしてバスの車内を安全に移動することができるように考えられています。マスターが述べたように、すごい力がかかりますので、綿密に強度についてのテストが行われます。

また、ムスコくんは気がついたでしょうか?高速バスの独立3列シートには、実は肘掛けの中にテーブルが格納されているのです。これを使用する時には肘掛けのフタから取り出します。

テーブル付シート
テーブル付シート

観光バスでは、このテーブルは前の座席のシートバック(後ろ部分)に取りついているのですが、高速バスの場合、乗客がシートをリクライニングして、後ろにぐっと倒す量も大きくなります。もし、前の座席のシートバックにテーブルがあったら、前の人がリクライニングした時、スペースが狭くなってしまい、テーブルを開いて使うことが難しくなります。なので、テーブルは肘掛けの中から出して広げることにしています。

今後、路線バスにおいてはより多くの人員輸送を実現させていかなければなりません。さらなるバリアフリー化はもちろん、車いす席の「跳ね上げシート」のように、すべての人が使いやすい座席を実現することも求められています。

また、観光バスや高速バスにおいては、ハイグレードシートなシートでの運行も増えてきているように、乗り心地の向上が求められています。4列シートが主だった観光バスや高速バスも、3列シートのバスや、ゆったりと座れる独立2列シートも登場しています。時代のニーズに応じた開発が求められているのです。

いろいろな要望に応えるために、今日もバスメーカーは全力をあげてバスを開発しています。

お父さん

うーん。今のバスの座席ってすごく工夫されているんだなあ

マスター

昔のバスとはぜんぜん違いますなあ

お父さん

よろけた時には、座席のシートグリップにも助けられていたんだなあ

ムスコくん

お父さんは力いっぱいつかむからシートグリップは強くないとダメだよね

お父さん

うむ。俺はバランスが悪いから……。それはさておき、あれはあんまり出っ張っていっても邪魔だし、微妙に工夫されているんだね

マスター

いつも見慣れたバスの中にはいろんな発見がありますよ。今度バスに乗った時にゆっくり観察してみるといいですなあ!

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