バス大図鑑

教えて!「安全衛生」のこと

大森の商店街の小さなレストラン「キッチンいすゞ」。
マスターは路線バスの運転手でしたが引退して、実家の洋食店を継ぎ、
カウンター越しに、お客さんとの会話を楽しみながら、おいしいランチを提供しています。
常連のお客さんにバスの話が大好きな親子がいて、今日もやってきたようです。

ムスコくん

マスター、近ごろあんまりお父さんと路線バスに乗れないんだ

お父さん

私もテレワークが中心だし、“お出かけ”は自粛してるしね

マスター

あらまあ。危険な感染症が猛威を振るっていますから、しかたないですなあ

ムスコくん

でもね、ここでマスターにいろいろ教えてもらったように、バスっていろいろ安全対策されてるじゃない?

マスター

それはもう、バスのメーカーもバスの事業会社さんも、そして運転手さんも、バスに関係する人はみんな、バスの衛生にすごく気を配っていることは間違いないですよ。乗る人の安全と安心を何より願っていますから

お父さん

うん。それはよくわかっているんだ。だからムスコは、バスは感染症の対策もちゃんとしているはずだって言うんだよ。つまりは早くバスに乗りたいわけだ(笑)

マスター

確かに恐ろしい感染症の拡大を防ぐのは、かんたんなことではありませんなあ。しかしムスコくんが言うように、すでにいろんな対策が立てられています。ほんの一部をお話しましょう!

バスメーカーやバスの事業会社さんなどは、バス内での感染症拡大防止のために「ひんぱんに空気を入れ換えること(換気)」と、「くしゃみや咳をした時に飛び散る小さな水滴である飛沫(ひまつ)及び、飛沫核(ひまつかく)を防ぐこと」(飛沫防止)の2つについて、すでに対策を考えています。もちろんこの2つですべて大丈夫ということではありませんが、たくさんのお客さんが利用するバスにおいては、とても大切なことだと考えているのです。では、バス車内での「換気」とバス車内での「飛沫防止」について、どんな対策が立てられているのでしょうか?

1感染症拡大防止対策「バス車内での換気」

まず感染症拡大防止のために「ひんぱんに空気を入れ換えること(換気)」です。

そもそもバスは、路線バスも観光バスも、車内の空気の入れ換えには気を使って作られています。参考にしていただきたいのが『教えて「空調」のこと』の回です。

路線バスには車両の前後の天井にベンチレーターファン(換気扇)、運転席には外気導入機能付きデフロスターが備わっています。

概ね3分で車内の空気を入れ替えることができます。更に、窓開けや乗降扉を開閉すると換気効果が上がります。

観光バスではエアコンとデフロスターに外気導入機能が備わっています。

概ね5分で車内の空気を入れ替えることができます。どうして観光バスのほうが、少し時間がかかるかというと、路線バスはたびたび停留所に停車してドアを開閉するのに比べ、観光パスはずっとドアを閉めきった状態で走行しますので、その分時間がかかるからですが、それでも5分で換気できます。

つまり、路線バスも観光バスも、バス車内の換気については、今までも対応できていましたし、現在も、ひんぱんに車内換気を行えるようになっています。

2感染症拡大防止対策「飛沫防止」

そして、くしゃみや咳をした時に飛び散る飛沫(ひまつ)及び、飛沫核(ひまつかく)を防ぐこと(飛沫防止)です。

路線バス、また観光バスの運転席のそばに、透明な板で作られた仕切りやカーテンがあるのを見たことがあるでしょう。これは、バスの運行会社などが独自に作ったり、バス備品として販売されたりしているものです。これらは飛沫を防ぐためのものです。

路線バス用飛沫防止用カーテンの例

ここで紹介したいのが、バスメーカーが感染症対策として、路線バス用に開発した「クーラー用エアロゾルフィルター(以下、エアロゾルフィルター)」です。路線バス車内に設置されているエアコンの、車内空気取り入れ口にエアロゾルフィルターを取り付けますと、車内の人から出て、漂っている飛沫の核(エアロゾル:飛沫から水分が蒸発したごくごく小さな飛沫)はエアコンの空気取り入れ口に吸い込まれ、このエアロゾルフィルターが捕まえてしまいます。これで、車内空間に残る飛沫の粒子の量は、窓を開放した場合と同じくらいのレベルに減少できる効果が生まれます。

このエアロゾルフィルターを装着したバスの空調の性能は、病院の一般の病室で設定されている空調の基準を満たしているぐらいです。

飛沫感染を防止するためのエアロゾルフィルターは、新しく発売されるバスだけでなく、既存のバス(一定の期間内のもの)にも取り付けられるように開発されていますので、今後、これを取り付けた路線バスが町中を走るようになるかもしれません。

飛沫核をエアロゾルフィルターで捕集するイメージ
0.3µm粒子を15分で99.9%除去できるエアロゾルフィルター
ムスコくん

ほらー! バスってこんなに安全衛生の対策がされているんだ!

マスター

もろちん、これですべて大丈夫というわけではありません。バスに乗る方がマスクをきちんとかけているかどうかによっても、車内の細かい飛沫の飛び散り方は変わってきますので、バスに乗る方にはぜひマスクをお願いしたいですな

お父さん

確かに。マスクをしていない人がくしゃみや咳をしたら、細かな飛沫がどう飛んで広がるのかをスパコンで再現した動画についてはテレビでもみたなー。あんなに飛沫が飛び散って広がるんだなーってびっくりしたよ

ムスコくん

ぼくも見たよ。今回のエアロゾルフィルターを作る時ってあんな実験もしているのかな?

マスター

飛沫の飛び散り方を検証するために、バスメーカーではたいへんな実験を何度も繰り返したそうですよ(笑)。コンピューター上でのシミュレーションはもちろん、バスの中に人の代わりのマネキンをたくさん並べて、そうして飛沫の飛び散り方を計測する実験を、短い期間のうちで数え切れないほど繰り返して、そのデータを分析したそうですなあ

お父さん

うわーたいへんそうだな……

マスター

それでは、バスの感染症拡大防止対策の続きをお話します……

マスクをつけない乗客のくしゃみから車内に飛沫が飛ぶ状態のシミュレーション

バス車内のエアコンに、エアロゾルフィルをつけた状態で、マスクをつけた乗客のくしゃみから、車内に飛沫が飛ぶ状態のシミュレーション

バス車内にマネキンを配置した実車での実験の様子

感染症に気をつけている中、バスに乗ると気になるのがバスのつり革や、握り棒(乗客がつかまる棒)ではないでしょうか。人の触れたところをつかみたくないと思う人もいるでしょう。しかし、バスの乗客はつり革や握り棒にちゃんとつかまらないと危険です。

もちろんバスの事業会社さんや運転手さんも、バスをきれいに清掃するでしょうし、消毒もするでしょう。また、バスメーカーは握り棒への抗ウイルスコーティング施工や抗菌材料を使用した路線バス用のつり革を準備しています。少しでもお客様に安心してつかんで欲しいからです。また窓を開けて換気する際の雨よけの為の「窓バイザー」も準備しています。天気の悪いときでも窓を開けて換気しやすいようにするためです。

今回は、感染症拡大防止対策が注目されてからのバスメーカーの取り組みをお話してきましたが、以前から観光バスには外気導入エアコンを標準で装備したり、またイオン発生機付エアコンをオプションで用意するなど、バスメーカーやバス事業会社さんは、最大限、安全衛生に配慮し、乗客が快適に移動できる空間を準備していました。ですので、感染症拡大防止対策にも取り組みやすくなっているといえます。

ムスコくん

安心した~! バスはこんなにいろんな感染症が広がらないような防止策を考えていたんだね

マスター

もちろん早く感染症が収まってくれるのが一番ですけどなあ

お父さん

しかし、感染症と人との関わりは今後も続くんだろうね。バス車内の換気の仕組みや飛沫防止の対策は、これからも役に立ち続けると思うし、進化するんじゃないかなあ

マスター

私の店も換気や飛沫防止に気をつけて、最大限に安全衛生に気をつけて営業してますからなあ。とくに換気扇はフルパワーですよ!

ムスコくん

近くに来ると、この店の料理の香りが外に漂ってるもんね

お父さん

『あっキッチンいすゞの香りだ』ってわかるもんなあ。客寄せ効果もあるんじゃないの(笑)

今日も「キッチンいすゞ」では楽しいバス談議が続きます。