バス大図鑑

教えて!「ノンステップバス」のこと

大森の商店街の小さなレストラン「キッチンいすゞ」。
マスターは路線バスの運転手でしたが引退して、実家の洋食店を継ぎ、
カウンター越しに、お客さんとの会話を楽しみながら、おいしいランチを提供しています。
常連のお客さんにバスの話が大好きな親子がいて、今日もやってきたようです。

ムスコくん

マスター、今日も路線バスに乗ってきたよ!横にノンステップバスって書いてあった!

お父さん

近ごろノンステップバスってよく見るよね

マスター

そうですなあ。走っているバスの半分以上が、もうノンステップバスらしいですよ

ムスコくん

そんなに増えてるんだね!

お父さん

どうしてノンステップバスが増えたのかなあ?

マスター

それは時代の流れによって世の中に必要とされてきたからです。それではちょっとノンステップバスについてお話ししましょう

  • 国交省資料「ノンステップバス等の車両数の推移(平成29年時点)」より

どうしてノンステップバス増えたの?

まず「ノンステップバス」とはどんなものでしょう?

ノンステップバスとは、車両に段差無く乗り降りでき、車内でも段差無く料金収受や、座席等が利用できる車両のことを言います。

車いすでも乗り降りしやすいノンステップバス

昔……。と言ってもそんなに遠くない昔です。昭和の時代にはエンジンが前の方にあるボンネット型のトラックをもとにしたバスが主流でした。トラックの部品をバスに流用できるというメリットがありました。しかし、トラックの車体構造をそのまま利用したので、乗り降りする時に「階段」が必要になり、その頃のバスは出入り口の階段を二段上がったところに運転席や客席・立席がある「ツーステップバス」の形態がほとんどになったのです。その後、エンジンがリア(後ろ)に移行していくのですが、それでもツーステップバスのスタイルは変わりませんでした。

時代は変わって平成。1990年代になると高齢者への配慮などから、乗り降りしやすいバスが世の中から求められるようになり、「低床バス」の導入が始まりました。ただし、まだトラックの部品を流用することが多かったので、階段を一段残した「ワンステップバス」が普及しました。

しかし、90年代後半になると、「もっと誰もが乗り降りしやすいバスが必要だ」という社会のニーズが高まってきました。国土交通省とバスメーカーが協議して、バリアフリー法により、ノンステップバスの標準仕様が制定されました。バスのレイアウトを工夫して、ノンステップバスの普及が本格的に始まります。

そして令和の時代になった現在、楽にバスの乗り降りができるノンステップバスが広く普及したのです。

広いノンステップエリア

ノンステップバスでは床下にあった部品を車両の後ろに移動させて、「ノンステップエリア」(段差のない床面)を広く確保するようにしています。また、「タイヤハウス」(タイヤを納める場所)の上にある少し高い座席は落下する危険があるので、現行のバスでは左側を廃止し、代わりに床下にあった燃料タンクを移設、伝い歩き棒を設置して車内移動にも配慮しています。この燃料タンクの移設は運転手さんに2つのメリットが生まれます。

給油口が高くなり給油しやすくなりました

一つ目は、燃料タンクの給油位置が少し高くなったことで、運転手さんが給油しやすくなったことです。それまでは少しかがんで給油する必要がありましたが、立ったまま給油できるようになり、作業が少し楽になりました。

運転手から見て左後方の視界が開けました

二つ目は、その左側の高い座席がなくなったことにより、運転手さんにとって左後方の視界がよくなり、左折する時に、左側の巻き込み確認がしやすくなりました。

ムスコくん

ノンステップバスってそんな工夫がされてるんだ!

マスター

高齢者の方からは『階段がないので乗りやすくなった』、車いすの方からは『スロープ板の傾斜が緩やかで乗り降りしやすくなった』、そして介助者の方からも『かける力が少なくなって楽になった』など好評のようですなあ

お父さん

やはり時代の要請なんだね!

ムスコくん

今後も進歩していくの?

マスター

ノンステップバスはワンステップバスに比べて、若干走破性能が落ちると言われていた時期がありました。しかしバスメーカーさんの工夫と努力により、現在はほぼ遜色ない走破性能になったと言われていますなあ

これからノンステップバス

現在のノンステップバスは全長をそのままにオーバーハング(前軸より前の長さと後軸より後ろの長さ)を短くし、ホイールベース(前輪の中心軸と後輪の中心軸の距離)を長くしてノンステップエリアを拡大しました。そうすることでより多くの人がノンステップエリアに乗車できるようになったとともに、アプローチアングルデパーチャアングルを確保することができ、踏切などの通過性をワンステップバス同等とできたのです。また、バスが右左折する時の、タイヤの「切れ角(車体の方向を決める角度)」を調整し、従来のバス同様の転回性能も実現しています。

わが国で現在普及しているノンステップバスは「簡易(前中)ノンステップバス」と言われるものです。これは、トラックと共通の部品を流用できるなど、比較的安価に製作できるとされます。一方、海外では「フルノンステップバス」と言って、車両の後方までフラットな床のノンステップバスが広く普及しています。日本でもそのようなフルノンステップバスを求める声もありますが、コストや法規、そして海外とは違う道路状況などの課題があります。社会の課題解決に向けて、バスメーカーは様々な検討を行っています。

ムスコくん

次はどんなバスが街を走るのかなあ?わくわく!

マスター

着々と研究は進められているようですよ。ただし、わが国の道路事情などの問題から、すぐ広く普及というわけにはいかないかもしれませんが、期待したいですなあ

お父さん

この子が大きくなる頃には、見たことのないバスが走り回っているかも知れないね

マスター

その時までムスコくんはバスのことを好きでいてくれますかなあ。大きくなったら飽きちゃってるかも(笑)

ムスコくん

ぼくのバス愛はノンステップだよ!

お父さん

それを言うならノンストップだろ(笑)

今日も「キッチンいすゞ」では楽しいバス談議がノンストップです。

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