バス大図鑑

教えて!「運転席」のこと

大森の商店街の小さなレストラン「キッチンいすゞ」。
マスターは路線バスの運転手でしたが引退して、実家の洋食店を継ぎ、
カウンター越しに、お客さんとの会話を楽しみながら、おいしいランチを提供しています。
常連のお客さんにバスの話が大好きな親子がいて、今日もやってきたようです。

お父さん

マスター、スタミナランチ! メンチカツもつけて!

マスター

はい。了解しました(と言いながらタマネギを刻む)

ムスコくん

ぼくはハヤシライス! ご飯は大盛りで!

マスター

はいはい。わかっておりますよ(と言いながら鍋をかき混ぜる)

お父さん

マスターは色んな注文を受けてたいへんだね~

マスター

いえいえ。大したことはないですよ(と言いながら味噌汁をよそう)

お父さん

このキッチンの中はマスターが使いやすいように工夫されているんでしょ

マスター

はい。どこに何があるか全部わかっています

ムスコくん

すごいや。だから一人で何でもできるんだね

マスター

でもね。バスの『運転席』も、一人で何でもできるように、バッチリ工夫されているんですよ

ムスコくん

「え? だって運転手さんは運転するだけじゃないの?」

マスター

はは、バスの運転手さんは一人で何でもやらなくてはなりません。仕事がしやすいように、運転席には色んな工夫がされているんですよ

運転席さまざまな工夫

現在走っている路線バスのほとんどがワンマンバスです。ワンマンバスとは運転手さん一人で運行させるもの。運転手さんは、乗客の様子を見ながら、外の状況も確認し、バスを発進させたり停止させたりしなくてはなりません。そして、乗客の乗り降りを見守りながら、次の指示をしなくてはなりません。たくさんの仕事をやらなくてはならないのです。

運転席の様子

バスの「運転席」は、そんな運転手さんの負担を軽減させるように工夫されています。まず、色んな操作をする運転席のステアリングホイール(ハンドル)を中心に、左右500㎜の範囲に収めるように工夫されています。それは、たくさんの仕事をやらなくてはならない運転手さんが、できるだけ操作しやすいように考え配置されています。

運転席にはまず運転のために必要なものがあります。

  • ステアリングホイール
  • アクセルペダル / ブレーキペダル / クラッチペダル
  • メーター類

そして、その他こんなスイッチがあります。

  • 前後の扉の開閉スイッチ
  • 行き先表示のスイッチ
  • バス車内エアコンのスイッチ
  • 車内放送関連のスイッチ
  • 室内灯のスイッチ
  • アイドリングストップの切り替えスイッチ※1
    1. ※1バスは、環境と燃料節約のため、交差点などでの停止したときにはエンジンを切るように設定できます。例えば、ブレーキを踏んで停止したら自動的にエンジンを切り、ブレーキから足を離したら自動的にエンジンがかかるような仕組み。
  • ニーリング※2のスイッチ
    1. ※2バスを傾けて乗りやすくすること。そのために、エアサスと呼ばれる部分の空気を調整する。バスが「シューッ」と音を出しているときはこのニーリングを行っていることが多い。

などなど、運転だけではなく、バスならではのいろんなスイッチを操作しなくてはなりません。スイッチ類だけでなく、足で操作するブレーキペダルなどの位置や角度はどのぐらいにするか、バスメーカーは運転手さんが楽に操作できるよう、決められた構造要件の中で工夫を凝らしています。

ムスコくん

バスの運転手さんってやることがたくさんで大変なんだね!

マスター

ははは。一番大切なのは安全に運行することで、周りに気をつけ、お客さんの乗り降りにも気をつけなくてはいけませんからなあ。ほんとに大変でしたよ……

ムスコくん

お客さんのお相手もしなくちゃいけないものね

マスター

はい。『次降ります』のボタンが押されたら、パッとお返事しなくちゃですね

お父さん

私なんかは運転が下手だから、バスのような大きな乗り物を普通に運転することだけでもけっこう大変だと思ってしまうよ

マスター

その辺は、メーカーさんも考えてくれているのですね……

さらなる運転しやすさ求めて

近年、バスでもAT(オートマ)車が増えています。以前のMT(マニュアル)車では、アクセル、ブレーキの他に「クラッチ」という機能を操作して、車のギアチェンジを行って走行させなくてはなりませんでした。それに比べてクラッチ操作が不要で運転しやすいAT車は、自家用車の主流になっています。色んな操作を行わなくてはならないバスの運転手さんにとって、やはり運転しやすいAT車が選ばれる傾向にあります。また運転しやすさのために、ステアリングホイールをできるだけ軽くするように開発が進められています。バスメーカーはそれらの開発について、実際にバスの運転手さんに試してもらって、評価をもらい、改良を続けています。

しかし中には、やはりマニュアル車の感覚が好きで運転しやすいという声もあり、そんな運転手さんのためにAMT(セミオートマ)車のバスも登場しています。これはATの「運転のしやすさ」とMTの「走りやすさ」の“いいとこどり”だと言われています。

現在運転手さんの高齢化が進み、女性運転手さんの採用や、セミリタイアした運転手さんの再雇用などが検討、進められています。そんな運転手さんたちには、やはり運転しやすいことが大事な要素となるでしょう。

ムスコくん

うーん。運転手さんが仕事をしやすいように、こんなに色んな工夫がされているんだね!

お父さん

昔はバスの運転手さんって、個人的に高い技能を持ってるというイメージだったけど、やはり『運転のしやすさ』ということが重視されているんだね

マスター

そうなんです。バスの運転と言うのは、とにかくストップ&ゴーが多いのですなあ。停留所に止まり、また発車する。これは一日何回繰り返すのかわからないくらいです。その間に乗客の対応やら、いろいろやらなくちゃいけないし…

お父さん

何せ、運転手の負担を軽減させるってことが大切なんだね

ムスコくん

それに比べたらこのレストランは暇だからたいしたことないよね(笑)

お父さん

こらっ

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