トラック大図鑑

教えて!「ランプ」のこと

ここは、神奈川県湘南台の喫茶店「いすゞCafe」。しぶいマスターが一人で切り盛りしている。
若いころはトラックドライバーとして活躍したらしく、
店にはそのころの写真や思い出の品が飾られている。
今日も地元の若いカップルが、おいしい珈琲に惹かれてやってきたようで・・・。

きょうこ

マスター、ブラジル!

あきら

ぼくはキリマン。(眼をシバシバさせながら)ねえマスター、珈琲って眼にいいのかなあ?

マスター

さあ?適度に飲むと肝臓にいいとか新聞に書いてあったような気がするけどね。どうして?

きょうこ

あきらくんたら、この頃ゲームやネットのやり過ぎで眼が悪くなってきちゃったのよ

あきら

でうーん。なんか、見えにくくなってきちゃったんだよ

ケンさん

お若いの。眼は大事だよ!

あきら

うわ、びっくりした。あなた誰ですか

マスター

いやいや、紹介するよ。わたしのドライバー時代の同僚で、今も現役トラッカーの松田ケンさんだ。ケンさんは、全日本トラッカーサンバ大会で優勝したこともあるんだよ

ケンさん

ヨロシク!オーレ!

あきら

こちらこそ!

ケンさん

きみたちね、ほんと眼は大事にしないとイケナイよ。とくに、夜なんか、前が見えにくいと命取りになるよ

マスター

トラックの眼といえば、とくにランプだよね。きみたち、トラックのランプってすごい創意工夫のかたまりだって知ってる?

あきら

あんなのただの電球でしょ?

ケンさん

とんでもないよー

マスター

ちょっと説明するね

ケンさん

オーレ!

トラックランプついて

トラックの「眼」といえばランプ。カタチ的にも車の「眼」ですが、とくに夜間走行では、安全走行に大きな役割を果すので、開発・設計にはたいへんな工夫がされています。

まず、ランプの「見易さ(視認性)」の点です。
トラックではドライバーの目の位置(アイポイント)が非常に高く、また、キャブオーバータイプ(ボンネットが無い)だと、クルマの直前までよく見えます。

見えやすいのはいいのですが、夜間走行時に、もしランプの照射にむらがあると、そこが気になって、ドライバーの注意が散漫になってしまい、かえって危険になってしまうことになります。
なので、ランプの照射むらがないよう、細心の工夫がされているのです。

また「耐久性」も大きなポイントです。
普通の乗用車は10年10万kmがひとつの寿命の目安といわれていますが、大型トラックは100万km以上走行することも珍しくなくて、さらに夜間走行が非常に多いのです。
また、乗用車のエンジンは大きくても3Lぐらいの排気量ですが、大型トラックでは14Lの排気量のエンジンを使っていますので、大きな振動がおきます。エンジンなどの振動が直接伝わらないように、また、その振動に耐えられるように、さまざまな工夫がなされています。

少しでも長寿命をと苦労した結果、通常はフィラメントのあるハロゲン電球だったのですが、数年前から、HID(放電灯)を光源とする明るいランプが開発されました。それは寿命も長いため、長時間、長距離走行の大型トラックにはずいぶん普及して、安全に貢献しているのです。

あきら

いやー、失礼しました。ランプって奥が深いんだ

きょうこ

そういえば、ランプのカバーっていうの?あのガラスのところがギザギザしているわよね?ああいうのにも、きっと意味があるのね

ケンさん

よく気がついた!セニョリータ

きょうこ

まっ、セニョリータなんて

マスター

きょうこちゃんが気づいたように、あのギザギザには確かに意味があってね。ランプの光を微妙に加減するものなんだね

あきら

けっこう繊細に考えられているんだなー

ケンさん

そうなんだよ。トラックってのは、みかけはゴツイんだけど、歩行者や対向車のことをやさしく考えているんだよ。オーレ!

ランプ工夫

HID(放電灯)を光源としたランプは、その明るさゆえ、対向車のドライバーや、先行車にはまぶしすぎることになってしまいかねません。したがってその対策も必要になります。
ランプには、視認性を向上するように微妙に調整を加えてあるのです。
日本では自動車は左側通行です。
トラックの運転手からみて、左横の歩行者や二輪、標識などが見えなくてはいけないので、ランプは左側の上部を照らすようにします。

ところが、右側も同じ強さで照らすと、対向車がまぶしくなりキケンですので、きょうこちゃんが気づいたような「ギザギザ」で、プリズムのような仕組みをつくり、水平に伸びるように照らして、まぶしくしないような加減がされるようになっているのです。
このように、トラックの「ランプ」はシンプルな見かけと別に、英知のかたまりと言えるでしょう。

ところで、「見易さ(視認性)」「耐久性」というのが、これまでトラックのランプの開発・設計の大きなポイントでした。しかし近ごろは「デザイン」というのも、重視されるようになっています。
以前はトラックなどの商用車では、フロントデザインのランプなどにはお金をかけていなかったのです。
実は「デザインでは売れない」という意見が多かったのですが、最近では、デザインの良さも車種を選定する大きなチェックポイントです。最近の傾向ではトラックも乗用車のようにきらきらと目立つランプになってきています。
そのため、デザインと、必要とされる性能のポイントをチェックすることがたいへん難しくなってきています。

マスター

わたしらのころと違って、ランプのデザインなんかも変わってきたよね

ケンさん

確かにね。洒落てきたよねー

きょうこ

やっぱり見た目は大事よね

マスター

設計者が、かっこいいデザインのランプ考えたとしてもね。耐久性や視認性とのバランスをとるのはたいへんなことなんだよ

ケンさん

まあ、男は見た目も大事だし、中身も大事だってことだね

あきら

そうだね、オーレ!

ケンさん

ぼくの台詞とらないでよー、オーレ!

きょうこ

ま、あきらくんは見た目も中身もまだまだね

こうして湘南台の喫茶店『いすゞCafe』では、マスターとカップルにケンさんも加わって、よもやま話はつきることがないようである。オーレ!

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